【取材メモ】写真記者が快感を味わえるスターの「顔」とは

　写真取材をしていて記者が最も気を使うのはスターの表情だ。笑顔、真剣な顔、考え込んでいる顔など、いろいろな表情をキャッチしようと努力している。取材現場に来られないファンの皆さんが、「スターの顔を目の前で見ているみたい」と感じられるよう、現場のムードをお伝えしたいからだ。

　だが、正直なことを言えば、上に書いた表現は少しの時間と忍耐強さ（？）さえあれば撮るのはそう難しくない。自分が主役となる記者会見場でしかめっ面をするスターはほとんどいないし、多くのタレントが取材記者からの質問に真剣な表情で聞き入ったり、考え込んだりしてから答えるからだ。

　では、撮るのが本当に難しいスターの表情とはどんなものだろうか？

　それは舌を出した顔だ。舌を出すところだけを狙ったとしても、そういう状況になることはほとんどなく、一瞬でも集中力に欠けたり、よそ見をしていたりするとカメラに収めることができない。舌を出す状況は突然やって来るもので、スターたち自身も気付かないうちに舌を出してしまうからだ。記者は取材に出た時は必ずスターたちの舌出しショットをカメラに収めようと努めている。

　なぜなら、男らしくたくましい男優のイタズラっぽさ、セクシーな女優のキュートさ、年輪を重ねたベテラン俳優の子供のような一面、初めて公の場に立った新人俳優の緊張から開放された一瞬、ライブ前の歌手が胸の高鳴りを鎮めている様子など、さまざまな感情や気持ちをファンが直に目にできる、興味深い写真になるからだ。

　常にファンや記者の前で魅力的な姿を見せなければならないスターたちの胸の内をあれこれと想像させる舌出しショット。その表情をとらえた瞬間は、写真記者にとってスリルと快感を味わえる「刹那（せつな）の美学」だと言いたい。