キム・ギドク監督の映画『ピエタ』が9日(韓国時間)、第69回ベネチア国際映画祭授賞式で最高賞の金獅子賞を受賞した。キム監督が今回の作品にかけた制作費は1億ウォン(約700万円)。韓国商業映画の平均制作費(40億ウォン=約2億8000万円)の40分の1のコストから生まれた「奇跡」だ。韓国映画がベネチア・カンヌ・ベルリンの世界3大映画祭で最高賞を受賞したのは『ピエタ』が初めて。キム監督はこの日、授賞式で「映画に携わった俳優、スタッフ、映画祭とイタリアの観客の皆さんに感謝する」として韓国民謡「アリラン」を歌った。
1996年に『鰐~ワニ~』でデビューしたキム監督は映画学校に通ったり助監督をした経験がない韓国映画界の「アウトサイダー」だ。お粗末な出来栄えのためにデビュー以来、しばらくは「アマチュア映画だ」「作品がみっともない」と批判された。通算観客70万人を動員して興行的に成功した『悪い男』(2001年)を除いては、作品のほとんどが国内の観客にそっぽを向かれていたため投資者もなかなか見つからなかった。
だが、キム監督の作品は韓国映画界に常に衝撃を与えてきた。特に女性の体の一部を傷つけるシーンがある『魚と寝る女』(2000年)や『受取人不明』(01年)、女子大生を拉致して売春させるという『悪い男』は暴力性や女性を侮辱しているとして物議を醸した。キム監督が映画で表現する人物像やストーリーは生々しく、立場が覆るという要素を持っている。映画評論家のオ・ドンジン氏は「キム監督の映画に共通する特徴は、善悪が幾重にも重なっていたり、あべこべになったりするということ。善は善ではなく、悪は悪ではないという登場人物たちは韓国映画ではまれ」と話す。同じく映画評論家のチョン・チャンイル氏は「韓国映画のほとんどは特殊な題材や極端な登場人物から始まっても、結局は普遍的な方向でまとまるが、キム監督の映画はこうしたものが終始極限まで突っ走る」と評した。
手荒い表現方法や極端な内容ではあるが、キム監督の映画では常に「救い」がテーマになっている。映画ジャーナリストのチェ・グァンヒ氏は「キム・ギドクの映画の世界で、女性は救済者という位置付けにある。暴力的な世界に放り出された野獣のような男や暴力を内に宿す人間が、女性を通じて救いを得ようとする」と話す。
キム監督は今でも韓国映画界で「非主流」という位置付けから抜け出せずにいる。観客が見向きもしないだけでなく、評論家の評価も分かれている。チェ・グァンヒ氏は「『弓』(05年)の通算観客数は約1000人と、韓国では一般の反応がまだ冷たい。しかもキム監督はベルリンやベネチアで相次いで監督賞を受賞した翌年、ホームレスと思われ警察署の留置場に入れられたこともある」と語った。キム監督は『弓』が興行的に惨敗したことから「韓国では映画を公開しない」と話したほどだ。
その一方でキム監督は外国人、特に欧州で熱狂的に支持されている「国際的スター」だ。評論家たちは「韓国よりも映画を幅広く受け入れる欧州がキム監督の映画に熱狂するのは当然だ」と話す。
表現の程度が比較的自由な上、「新しい映画」に大きな魅力を感じる欧州の映画界に極端なテーマや表現が描かれているキム・ギドク映画は次々と新しさを提供する。キム監督の映画に込められた東洋的な情緒も大きな影響を与えた。「キム監督特有の善悪のあいまいさや硬く粗い表現方法に対し、欧州では『エキゾチック』と受け止められている」(オ・ドンジン氏)という。