昨年大ヒットした映画『10人の泥棒たち』や『王になった男』にも男女の「恋心」や「駆け引き」はあった。それが中心的なテーマではなくても、ストーリー上のお楽しみ的な役割になっていた。ところが、今年の韓国映画興行トップ10に入った作品のうち、『恋愛の温度』『タワー』以外には男女間のラブストーリーが出てくる作品が見当たらない。観客1000万人を動員した『7番房の贈り物』は男子刑務所内で父と娘の情が描かれているし、『新世界』と『伝説の拳』は男たちの世界を描くことに専念、女性の入り込む余地がなかった。最も代表的なのが『監視者たち』だ。恋愛映画に数多く出演している女優ハン・ヒョジュがヒロインのハ・ユンジュ役を演じているが、どの登場人物に対しても職場の同僚以上の感情を持っていない。そのハ・ユンジュはもちろん、ファン班長(ソル・ギョング)やイ室長(チン・ギョン)のロマンスもない。これまで韓国映画に、全体のストーリーの流れとしては必然性がなくてもチラリ程度には登場していたロマンスの部分を、思い切って外したのだ。
ロマンス部分をなくした映画について、観客や評論家はむしろ歓迎しているようだ。興行トップ10の映画のうち、恋愛物ではないが男女主人公の愛を描いているのはパニック映画『タワー』だけ。しかしこの映画は評論的には全く注目されず、かけらほどの愛も描かれないドライな演出が利いた『新世界』や『監視者たち』の方が「きちんと作られた特定ジャンルの映画」とプラス評価されている。ポップカルチャー評論家のキム・ウォン氏は「恋などしている余裕のない現実が映画に反映されている。映画の中で主人公たちは生死を懸けた闘いをしている。恋をする暇なんてあるものか。恋は現実とかけ離れた設定だと受け止められている」と話す。
男女間のロマンスが映画から消えたかと思うと、男性同士の「ブロマンス」がよく登場するようになった。ブロマンスとは「ブラザー(brother)」と「ロマンス(romance)」を合わせた造語で、インターネット・スラング辞典「アーバン・ディクショナリー」ではこれを「異性愛者の男性同士が抱く、説明しがたい愛や愛情関係」と定義している。今年上半期のヒット作を見てみると、男女のラブロマンスにそっぽを向いた観客たちでも「ブロマンス」には熱狂している。
『新世界』ではジョン・チョン(ファン・ジョンミン)が組織の後輩イ・ジソン(イ・ジョンジェ)を「ブラザー」と呼んでかわいがっているが、これを見た観客の中にはその言い方までまねて「ブラザー」と繰り返す人もいる。『隠密に偉大に』では主人公のウォン・リュファン(キム・スヒョン)が弟のようにかわいがって世話をしてやるリ・ヘジン(イ・ヒョヌ)の頭をなでると、女性客が歓声を上げるという現象が起きている。キム・ウォン氏は「戦場のような危機的な状況で見られる友情や兄弟愛といったたぐいの方が、男女の愛よりも脚光を浴びている。『お前が死んだらオレも死ぬ』という共同体的な生存意識が『ブロマンス』をより強固にしている」と分析した。