パク・チャヌク監督が短編映画祭で「発見」、プロデュース買って出る
何か失礼でも?いや、もともと人見知りなのかしら。釜山映画祭に参加したというから、疲れがたまっているのかも…それとも、新人だから?
ずいぶん長い間、沈黙が続いた後、ようやくイ・ギョンミ監督(35)は口を開いた。「わたし、おなかがすいていると言葉が出てこないんです」。やはりそうだったのだ。パク・チャヌク監督の話通り「前代未聞のコンプレックスの塊&ハチャメチャなキャラクター、“ミスにんじん”を生み出した」イ・ギョンミ監督は、決して物静かな女性ではなかった。8日、朝鮮日報社前のカフェで会ったイ・ギョンミ監督は、サンドイッチとサラダを平らげると、ミシン油を差して滑らかになったのか、アナウンサーのようによく響く声でまくし立て始めた。
イ・ギョンミ監督は16日公開の映画『ミスにんじん』がデビュー作の新人。だが、『追撃者』で長編デビューしたナ・ホンジン監督と共に、今年最大の有望株の一人に挙げられている。制作費10億ウォン(約7600万円)という低予算商業映画、ポンポン飛び交うセリフの応酬、常識を覆すシーン構成、しっかりとした台本で、評価が高い。何よりも、パク・チャヌク監督に「見いだされた」というのが最大の話題だ。イ・ギョンミ監督は2004年、ミジャンセン短編映画祭社会ドラマ部門の最優秀作品賞を受賞したが、このとき審査員を務め、その才能に目を付けていたのがパク監督だった。イ・ギョンミ監督はパク監督の『親切なクムジャさん』で助監督を務めながら下積みをした。そしてパク監督はこの『ミスにんじん』で初めてプロデュースを手がけた。
今でこそ「大型新人」と呼ばれているが、もともと映画とは全く縁がない世界にいた。韓国外国語大学ロシア語科を卒業後、貿易会社で働いていたフツーの女性会社員。だが、高校生の時に夢見た芸術に対する情熱は忘れられず、28歳にして遅ればせながら韓国芸術総合学校映像院に合格、これがターニングポイントになった。
アンソニー・ホプキンスの声やKBS第1テレビのドキュメンタリー番組『動物の王国』で有名な声優、イ・ワンホを父に持つ。血筋が血筋だけに、映像関係の夢を持つのは不思議ではない。しかし、父親との関係について、イ・ギョンミ監督自身は「血が飛び交う戦争だった」と語る。卒業作品賞をもらったときですら、父は「お前は過大評価されている」と言った。「そう言われるたびに“褒められたい”という気持ちがわいてきました」。
運命だったのか、血筋だったのか、一足遅れで見いだされた才能ゆえか、パク監督の「親切な」弟子養成のおかげか…。イ・ギョンミ監督が生み出した「ミスにんじん」はとても個性的なヒロインで世間の関心を集めている。ジェラシーの塊で、自意識過剰なのは序の口。孤児でいじめられたことがトラウマになり、世間とは一線を画し、自分防衛のための「我田引水的」恋愛感をぶちまけるヒロインに、思わず「ったく!」と口にしてしまいつつ、「あんな子、わたしの周りにもいるわ」と拍手を送り、最後には「ああ…あれ、わたしかも」とうなずいてしまう。よくある血液型性格診断で言えば、「超憶病者トリプルA型」で「発散型そううつ病B型」、「激気まぐれAB型」と「超天然アンドロメダO型」という性格が一人の人物に投影されているのだ。自分のことを「恥ずかしい」と思っていたヒロイン、ヤン・ミスクが殻を破るとき、彼女を慰めていた観客たちは、いつの間にか彼女を通じ、癒されている自分を発見する。
ヤン・ミスクは監督の経験が生み出したキャラクターだ。「一人で台本を書くのは寂しいし、そううつ病もひどくなるし、“負け犬女ヒステリー”みたいに体の異常反応や被害妄想、“健康心配症”まで…。そうまでしてやっとの思いでできた作品だからか、パク監督は“ミスクで16話物のミニシリーズドラマを作ってもいいな”って」。イ・ギョンミ監督は今回の映画を仕上げたとき、「これでやっと話せる」と言ったそう。話すのが大好きだというイ監督の口が本格的に開き始めるとは、次回作が見られる日もそう遠くはなさそうだ。