6月18日に韓国で公開される日本映画『深夜食堂』のプロモーション活動のため来韓した俳優・小林薫はそう語った。
小林薫は「われわれは人生で殺人のようなむごい出来事よりも、恋人や家族、友人との別れをより多く経験する。そんな意味で『深夜食堂』は、劇的な面白さはないが、小さな感動で観客が心を慰められたり癒されたりして、新たなスタートを切れるきっかけになればうれしい」と話した。
『深夜食堂』は、安倍夜郎の漫画が原作。2009年に日本でドラマ化され、2011年には第2部が、2014年には第3部が放送され人気を集めた。そして今年初めに映画化された。最初にドラマを制作したときから映画化を念頭に置いていたらしく、映画化までに6年かかった。
『深夜食堂』は、東京・新宿の路地裏にある小さな食堂を舞台に、マスターとその店を訪れる客たちの交流を描く。大切な人を亡くしたり、それぞれ事情を抱えた客が登場し、食事をしながら話をするというものだ。特別なものはなくても、登場人物たちの話を聞いているとお腹が満たされるような気がする。実際、『深夜食堂』のストーリーはマスターではなく、客のエピソードで進められるが、マスターは特に何も言わなくても、その存在だけでエピソードとエピソードの間の余白を埋め、ストーリー全体を完成させる象徴的存在といえる。マスター役の小林薫の演技力をあらためて感じさせる作品だ。
原作漫画とドラマがアジア各国・地域で熱心なファンを抱えており、映画も韓国をはじめ台湾、香港などで公開が確定。『深夜食堂』は韓国にも多くのファンがいる。
「(『深夜食堂』の)韓国での人気は、ドラマ撮影中から知っていた。ユーチューブで『深夜食堂』を検索すると、韓国語の字幕が付いた動画が出てくる。それが合法なのか違法なのかは分からないが(笑)。韓国でどれくらい人気があるのかは知らなかったが、楽しんでくれている人がいることは知っていた」
小林薫は、マスターがそのままスクリーンの外に出てきたかのように、ソフトなカリスマを漂わせていた。マスターと違う点と言えば、慎重さの中に愉快さが詰まっていること。中東呼吸器症候群(MERS=マーズ)感染拡大の影響で、韓国訪問に対する不安はなかったのか尋ねられると、小林薫は「この映画を紹介するため、死ぬ覚悟で韓国にやって来た」と言ったかと思えば「私が食堂の主人だとしたら、マスターのように仕事をしたらつぶれてしまうだろう」と話し、笑いを誘った。
小林薫は、現在韓国で(食べる姿を放送する)グルメ番組が流行っていることについても一言語った。
「韓国でグルメ番組が人気の理由はよく分からない。日本でも1990年代後半から2000年代前半にかけてグルメ番組が人気を集めたが、今ではそれも落ち着いている。韓国もそうなるのではないかと思う。グルメ番組の人気があるときに『深夜食堂』が公開されるのはラッキー。韓国の観客が『深夜食堂』を見て、お腹も心も満たしてくれたらうれしい」