◆スターではなくユハちゃんのママに
「日本にいるとき、ユハがお腹が空いたと泣くので、人通りのある場所で授乳をしようとしたら、夫が新聞でわたしたちを隠してくれました。すごく慌てて、恥ずかしくないのかって言いながら」
韓国人のチョン・ソンギョンにとっては、外国である日本の方が「母親」をしやすいのかもしれない。この日もスターらしからぬ地味な服装だった。
「ユハの物は新しく買ったものもあるけれど、お下がりの方がもっと多いくらいです。親戚の子どもたちが12人もいるので、姉の子どもたちのお下がりをよく使っています。周りから『子どもを何人も産んだ母親のように育てている』と言われているほどです。おむつのような消耗品は、インターネットで共同購入しています」
ほとんど夫の職場がある日本で過ごし、仕事のあるときだけ韓国に戻ってくるチョン・ソンギョンは、日本での生活についても語った。
「物価が高い日本で生活するのは大変じゃないかとよく聞かれるけれど、わたしが住んでいる大阪はそれほど物価が高い方ではなく、おむつや粉ミルクは韓国より安いくらいです。日本での生活は、物価よりも言葉の方が問題です。だから近所の社会福祉施設で日本語を習っています。これからユハを幼稚園や学校に行かせるには、日本語が上手くなければなりませんから」
100日が過ぎたばかりのユハちゃんの幼稚園や学校の心配をしながら日本語を勉強するチョン・ソンギョン。もしかしたらものすごい教育ママになるのではないかと言うと、大笑いした後、こんな話をしてくれた。
「ユハを産んだ後、はり治療のために通院していたら、隣で一緒に治療を受けていた女性たちが『父親は経済力、母親は情報力が大切。いい高校に行かせるためにはどこどこで勉強させなければだめ』という話をしていました。だから看護婦さんにそっとその人たちの子どもの年齢を聞いてみたら、やっと1歳になったばかりだって…」
日本では近所の公園に行くとたくさんの子どもたちが遊んでいるのに、韓国の公園には子どもが一人もいない。幼稚園のころから塾に行かせる韓国の教育熱に驚いているという。
「だからユハは自由に遊ばせて育てよう、と夫と約束しています。周りの人たちからは、子どもがもう少し大きくなったら考えが変わるはず、と言われます。わたしも後でどうなるかはよく分かりません。でも今のところは自由に育てたいと思っています」
チョン・ソンギョンは先日、ユハちゃんに読み聞かせるために童話の本を購入したとか。ページをゆっくりめくりながら本を読んであげると、ユハちゃんは本から目を離さず、うれしそうに笑っているという。「最近、マンマとかダーとかおしゃべりするようになりました。この前は『オンマ(お母さんの韓国語)』って言ったんですよ。結婚前、母親たちが同じような話をすると、絶対ウソだと思っていたのですが、今ではその気持ちが理解できます。母親は赤ちゃんの口の形や発音が分かりますから」
その話を聞いていた記者が信じられないような表情をすると、チョン・ソンギョンはやや興奮して、その話が本当であることを伝えようとした。一生見ないと思っていた子ども向けのアニメを見るようになったり童謡をすらすら覚えているという、幸せそうな母親チョン・ソンギョン。
「母親の気持ちを理解してくれるのはやっぱり娘じゃないですか。
わたしの一生の味方ができたと思うと、幸せでご飯を食べなくてもお腹が一杯です」