世界のグルメの感性をデザインで満たす杉本貴志氏

 最近の人々はレストランで“感覚”を食べる。おいしい料理同様、室内デザインの美しさが重要になり、そうした所に足を運ぶようになる。レストランのインテリアで世界的に知られる杉本貴志氏の人気が高まっている理由もそのためだろう。

 29日、杉本氏がデザイン、プロデュースを手がけたソウル市・江南(カンナム)にあるノボテルホテルの日本食レストラン「Shune」のオープニングに出席するため訪韓した。

 世界のグルメの感性を満たす杉本氏に、自分がデザインした代表的なレストランを聞いた。「英国ロンドンの『Zuma』、東京六本木の『Shunbu』、シンガポールの『Mezza 9』、中国上海の『Pu-J‘s』…」。出てきた名前は世界的な大都市にある有名店の数々だった。

 杉本式デザインは、それぞれの空間を最大限に活かしつつも、自然素材を創意的に活用することが特色として挙げられる。杉本氏は自分のスタイルについて「大きな石をレストランの片隅に配置し、加工していない丸太をテーブルに使ったり、土を壁に塗って自然な感じを演出する」と説明した。

 こうして杉本氏は世界の大都市でグルメな人々を魅了しているが、留学経験はなく、東京大学美術学部を卒業した“純和製”だ。西武、阪神をはじめとする日本の百貨店のインテリアデザインを手がけながら実力を養った。しかし、その後すぐにレストランのデザインに方向を転換した。

 「百貨店はインテリアを頻繁に変えなければならないので、とても忙しいんです。インパクトのある面白いデザインを手がけるのも簡単ではありませんでした。もちろん食べることが好きでレストランを選んだのですが」

 杉本氏が初めて世界的にヒットさせた作品は、1971年に手がけた「Radio」というバーのインテリアデザインだった。5坪余りの小さな部屋に施したデザインは、当時の日本だけではなく、ヨーロッパや米国などの海外でも大きな反響を呼んだ。

 「今でもそうですが、当時の日本ではヨーロッパのスタイルを真似たり、日本の伝統的デザインを固守するといった傾向が強かったんです。私は伝統的な日本のスタイルではないがヨーロッパ式でもない、今まで見たこともないような革新的なデザインを披露したので、多くの支持を得たようです」

 杉本氏は韓国の若手デザイナーが世界的な名声を得るには、韓国の現実からインスピレーションを得なければならないと助言した。

 「ヨーロッパの文化はすでに魅力を失ったと思います。ヨーロッパのデザインも壁にぶつかったのです。韓国、中国、日本の今を既存のヨーロッパ中心のデザインとミックスさせ、新たなものを創造しなければならないのです」

 杉本氏はその後も世界各地に新たにオープンするホテルやレストランのデザインを手がけた。日本を代表する企業「ソニー」の“顔”とも言える、東京の銀座ソニースクエア、JR東西線の7駅も杉本氏がデザインした。最近では、プロジェクトの企画段階から参加するケースも増えてきた。

 厨房を客席の中に据え、調理する様子を華麗なショーのように見物できるようにしたアイデアは、杉本氏がシンガポールの某レストランをデザインした際に初めて採用したが、その後、世界中のレストランが真似をし、流行として定着したという。

 杉本氏はデザインに限らず、レストランも運営しているそうだ。東京の新宿、銀座、赤坂などにある杉本氏のレストランチェーン「春秋(SHUNJU)」は、日本で最も“感覚的”なレストランとして評価されている。春秋で発行した料理本は英語にも翻訳されている。

 杉本氏は「商売がうまくいきすぎても困る」という、レストランのオーナーとしては“奇妙な”経営哲学を持っている。

 「さまざまな種類の人たちが訪れる大衆的なレストランもありますが、どんな料理を出すのか知り、わざわざ訪ねてくる客だけのレストランもあります。私は料理と対面するために緊張して訪れる客を望んでいます。レストランは背広のようなものです。最初から体にぴったり合い、楽な服もありますが、私は、最初は窮屈で堅苦しくても、だんだんと馴染んでくる背広が好きなんです」

 韓国料理が好きで、よく韓国を訪れるという杉本氏は、韓国の陶磁器、中でも朝鮮時代につくられた見栄えの悪い土器から多くのインスピレーションを得るという。

 杉本氏は「昔の韓国の土器はどれもすばらしい。古い土器には現在では珍しくなった独創性やエネルギーが感じられる」と話した。

金成潤(キム・ソンユン)記者
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