曹渓宗仏教文学賞を受賞した小説家の崔仁浩氏

 小説家の崔仁浩(チェ・インホ/58)氏は“記録の男”だ。1963年、17歳の若さで韓国日報新春文芸に最年少で入選し、70年代初めには『星たちの故郷』で、国内小説のミリオンセラー時代を切り開いた。

 彼が最近、ユニークな記録をもう一つ追加した。大韓仏教の曹渓宗(チョゲジョン)が制定した現代仏教文学賞・第8回の小説部門受賞者に選定されたのだ。

 87年にカトリックに入門、「ペテロ」という洗礼名を持つ崔氏は98年、カトリック新聞社が授与する「第1回韓国カトリック文学賞」まで受賞している。彼は「片手にはお釈迦様が下さった賞が、もう一つの手には神様が下さった賞をもらっているのだから、死後のことはもう心配ない」と、余裕たっぷりに笑って見せる。

 「89年ごろだったかな、朝鮮日報に連載していた『忘れ去られた王国』を終えてから、蒸発したことがあったんですが、その時、私は僧服をまとっていました」。

 蒸発していた3年間、彼は忠清(チュンチョン)南道・禮山(イェサン)の修徳(スドク)寺にいた。そして、そこの住持だった鏡虚(キョンホ)和尚の一代記を綴った『道のない道』を書いた。

 「初め、隠遁を決心した時は、聖書の勉強ととことんやるつもりでした。しかし、突然『2000年間、わが民族の精神を支配した仏教もやはり、わが民族精神の原形質のようなものでなないか』と考え始めたのです」。

 当時、セムト出版社の主幹だった小説家の鄭燦周(チョン・チャンジュ)氏から仏教関連の書籍10冊あまりを推薦されたのがきっかけとなった。その中から鏡虚和尚の法語集を見つけた。

 「無事唯成事(仕事がないことがかえって私の仕事だ)という和尚の文章に接した瞬間、彼に惚れ込みました。顎の下に錐を付き立て、修行に励んだという和尚。どれほどまでに熾烈に生きたくて、そこまでしたのだろうと考えると、好奇心が沸き立ちました」。

 修徳寺の住持の法性(ポプソン)僧侶もやはり、彼に「あなたは前世で法器(仏道を修行する素質のある人)だった」とし、「鏡虚という話頭を一時も手放すな」と勧めた。

 僧服に麦わら帽子をかぶり、修徳寺を行き来していると、彼を僧侶だと思い込んだ信者らが彼に手を合わせてあいさつをすることもしばしばあった。彼は信者らの信心を害してはならないと思い、一緒に手を合わせたりしたという。

 僧服をまとい、狎鴎亭(アックジョン)洞のロデオ通りを闊歩しながら、聖と俗を思惟する街の哲学者に扮したりもした。性澈(ソンチョル)和尚の弟子の海印(ヘイン)寺の圓澤(ウォンテク)僧侶とも友たちになった。圓澤僧侶は小説を書く時の参考にと、彼に仏教関連の書籍、50冊あまりを送ってくれた。

 『道のない道』は1993年にセムト出版社から出版されたが、昨年5月、ヨベク出版社から再出版された。昨年ミュージカルに作られ、話題を呼んだ小説『夢遊桃園図』もまた、三国史記に登場する説話『トミ伝』を素材にして、彼の仏教的世界観を盛り込んで書いたものだった。

 『夢遊桃園図』の作家のことばで彼は「2002年夏、海印堂にて 崔仁浩」と書いている。「海印堂」とはソウル・ノンヒョン洞の自宅を彼が仏教式に呼んでいる名前だ。作家自ら名付けたという「無二堂」という法名も持っている。「無二堂」もやはり鏡虚の法語集の禅詩に登場する表現だ。

 95年、聖書の黙想集『お前は私を誰だと考えるか』を出版、カトリック信者であることを再確認した彼は、99年、『私は今なお僧侶になりたい』という“露骨な”タイトルのエッセーを書いた。

 このことで誤解もされたが、彼はその時も今も、「私の精神的父がカトリックだとすれば、私の魂の母は仏教」という言葉で、2つの宗教世界を行き交う自分の精神世界を説明した。

 崔氏は最近、新たな全盛期を迎えている。小説『商道』を通じて久々にベストセラー作家に復帰した後、『夢遊桃源図』に続いて、海商王の張保皐(チャン・ボゴ)の生涯を描いた『海神』で引き続き話題を集めている。しかし、彼は「作家として、未だ腹を空かしている」という。

 彼は「この先10年間、ものすごく沢山書く予定」とし、その初挑戦として、「長らく準備してきたイエスの物語を書くつもり」とした。宗教指導者として剥製されたイエスではなく、“人間としてのイエスの生涯”を描くつもりだ。

 「若いごろは電線のように欲望が張っていたため、漏電事故が多かった。今は細い電線は全部切り落として、1本の太い線だけを残しているような気がします。漏電はないと思いますが、大きな火を起こしてみたい」。

 彼は大きな火を起こしてみたいという作家としての欲望を、「鏡虚とイエス、カトリックと仏教が教えてくれた熾烈な求道の精神」と話した。

金泰勲(キム・テフン)記者
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