「申し訳ございません。いろいろあって、きょうはやむを得ない事情により歌を歌えなくなりました」

 10日午後6時、京畿道議政府市内の議政府体育館で開かれるはずだった「米第2師団創設100周年記念コンサート」。1階から3階まで満員になった観客3500人がざわめいた。このコンサートでオープニングを飾る予定だったベテラン歌手のインスニは赤いスーツを着てステージに登場したが、歌わずに頭を下げ続けた。そして、「申し訳ございません」と言い残してステージを去った。

 この日のコンサートは、議政府市に本部を置く米第2師団が創設100周年を迎えるにあたり、同市が米国兵士のために企画したイベントだった。ビンセント・ブルックス韓米連合司令官兼在韓米軍司令官やトーマス・バンダル米第8軍司令官ら軍幹部約50人と米兵士約400人、市民約3000人が入場していた。入場料は無料だった。議政府市はインスニ、Crying Nut、EXID、OH MY GIRL、SWEET SORROW・San Eら有名歌手や女性アイドルグループを招待していた。しかし、この日の公演にはインスニとCrying Nut以外の歌手たちは姿を見せなかった。Crying Nutも謝罪しただけでステージを降りた。

 歌手たちが歌えなくなったのは、一部団体が反対したためだった。全国民主労働組合総連盟(民主労総)や左派政党の労働党などは5月下旬から「在韓米軍の装甲車に命を奪われた女子中学生ヒョスンさんとミソンさんの命日の三日前に、わざわざ米軍のためのコンサートを開くのか」「市の予算が不足しているのに、なぜ米軍のためのイベントをするのか」と主張、議政府市にコンサートの中止を要求したのだ。

 インスニはこの日、代表曲の『父』『ガチョウの夢』など3曲を歌う予定だったが、1曲も歌えなかった。所属事務所によると、ステージに立つ前は楽屋で涙をこぼしていたという。インスニは米軍兵士の父親と韓国人の母親の間に生まれた。主催側は午後7時30分、「コンサートに出演する予定だった歌手たちはすべて出演キャンセルになった」と最終的な案内放送をした。観客はぞろぞろと会場を後にした。米第8軍軍楽隊、議政府市立舞踊団・合唱団、テコンドー、国楽など一部公演は行われたものの、予定していた3時間半より1時間早く終わった。

 出演予定だった歌手たちは、これまで一部のネットユーザーたちから執拗(しつよう)に「出演するな」と圧力を受けていたという。コンサート出演を予定していたが取り消したある歌手の所属事務所関係者は「出演するなという脅迫めいた電話が来たり、ネット上に悪質な書き込みをたくさんされたりした」と話す。EXIDの所属事務所バナナカルチャー・エンターテインメントは同日、ファンサイトに「オファーを受けた時は議政府市民と共に過ごす入場無料公演という趣旨に賛同して出演を決めた。ところが、所属アーティストの身辺や精神的な被害の恐れがあると判断して出演を取り消すことになったことをご報告いたします」との告知を掲載した。議政府市関係者は「コンサートに出演する予定だった歌手たちのほとんどが当日午前に出演キャンセルの意向を伝えてきた。『出演したらただでは置かない』という一部ネットユーザーの圧力に屈して出演を取りやめたと聞いた」と説明した。

 この日、コンサートが行われる前の午後3時から民主労総京畿北部支部や労働党議政府党員協議会などのメンバー約10人余りが議政府体育館入口でデモを行った。デモ参加者たちは「芸能人を動員して米軍創設を祝うよう青少年に強要するのは反教育的な行為だ」と糾弾した。米第2師団創設日(10月26日)前後ではなく、2002年6月13日に米軍装甲車にひかれて女子中学生2人が死亡した「ヒョスンさん・ミソンさん死亡事故」15年まであと三日という日にコンサート開催を企画したことに対して強く反発したものだ。議政府市関係者は「当市に現在駐屯する3つの米軍基地は来年までに平沢に移転する計画なので、兵士たちは続々と議政府を離れている。できるだけ多くの米軍兵士がいる時にイベントを開催しようと考えたためこの時期になり、ヒョスンさんとミソンさんの追悼週間と重なってしまった」と言った。

 コンサートを訪れた同市の女子高校生(16)は「友達と午後4時半から並んで入場したが、誰も歌わないなんてガッカリした。公演が中止になった理由もよく分からない」と言った。コンサートを企画した秋溪E&M関係者は「韓米友好増進と国家安全保障強化のため企画したのに、一部団体が政治的な理由でイベントを混乱させた。今回の件が韓米関係に悪い影響を与えるのではと心配だ」と述べた。

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