「君たちは皆“異常者”だ。正常な人間はいない」

 昨年末、SBSテレビのドラマ『バリで起こったこと』のシナリオ作家、キム・ギホ氏は初の撮影を控え、ソ・ジソブ、チョ・インソン、ハ・ジウォンを呼んでこう言った。

 先週34.7%の視聴率を記録して10~20代の若者の間で「Bali Lover」ブームを巻き起こしているこのドラマのパワーの源は、逆説的に頭の中と心に大きな穴が空いた空虚なだけの人物たちにある。

 極めて自己中心的でやりたい放題の大手企業の二代目 チョン・ジェミンと、笑顔のまったくない憂鬱な出世主義者 カン・インウクが一人の女性を巡って激突するこのドラマが若者たちから熱狂的な支持を得ているのはなぜだろうか。

 今月22日の午後、ソウル駅前にある「シティータワー」の20階でス^ッフたちに囲まれて撮影に余念がない『バリで起こったこと』の2人の“ライバル”にインタビューした。

▲可愛い悪役、チョン・ジェミン-チョ・インソン=ジーンズに白いスニーカーを履き、2つのボタンを外した黒のシャツと灰色のジャケットを着たチョ・インソンは言葉も笑顔も多かった。

 「ジェミンですか?悪く言えばただの生意気な奴でしょう。でも内面は子供みたいな純粋さがあります。だから私自身も分からなくなることが多いです」


 チョ・インソンは「第1話と16話のジェミンを一度比べてみてください」と目を大きく見開いた。愛とは何かも知らなかったわがまま者が一人の女性と出会って変化する姿が印象的だという意味だ。

 「ジェミンはスジョンと恋に落ちるが、なぜ結婚だけはだめだと言うのか?」と聞くと「それが現実」とあっさり答える。スジョンについては貧しさやお金の大切さを分かっていて生活力もあり、現実でも魅力的な女性だと評価した。

 チョ・インソンのアンバランスなファッションは最近話題になっている。これは視聴者たちにジェミンの複雑なキャラクターをひと目で分かってもらう方法を悩んだ末にチョ・インソンが考え出したスタイルだ。「ある意味冒険でしたが反応も上々なので良かったです」

▲憂鬱なカリスマ、カン・インウク-ソ・ジソブ=撮影現場でもインタビュー中にもソ・ジソブは無口だった。「一体ドラマの中で笑う場面がるのか?」と聞いた。すると、ようやく顔がほころんできた。

 「そうですね…時々あざ笑うことはありますが、私も思い出せないほどです。最初の頃に本当に数回だけ笑ったことがあったとは思いますが…」

 ソ・ジソブが感じるインウクは「心の中の悲しさと苦痛を自然に外へと吐き出さずに自分の心の中で和らげるのがむしろ楽だと考える人物」だと言う。しかし、スジョンに対する想いが自分の生き方を支配してきた価値観そのものを揺れ動かしていることを感じる。

 「スジョンのことが好きで仕方ありませんが、二人が結婚したところで未来は明るくないと躊躇うのです」

 ソ・ジソブはジェミンとインウクの間を行ったり来たりするスジョンについて「自分だったら他の男が好きだと言われたら絶対に止めない」と言う。

 ソ・ジソブは中学生の頃に両親が離婚した後、日雇い労働をして生計を立ててきた母親と一緒に日の当らない地下に部屋がある安アパートでずっと暮してきた。ドラマに登場するインウクにも劣らない貧しさを身をもって経験してきたのだ。

 「ゆとりのある生活をしたことがなかった」と無表情に語る彼の表情からは並々ならぬ強靭さが感じられた。ソ・ジソブは「ドラマの中でスジョンとミヒが7万5000ウォンの料理を食べて『この値段なら米2袋と一カ月分の食費』と言うシーンが心を凍りつかせた」と語った。

▲『バリで起こったこと』の結末は悲劇? =ネット上の噂では『バリで起こったこと』のジェミン、インウク、スジョンの3人は最後に皆死を迎えるという。しかし制作陣は「決まっているものは何もない。ただ悲劇的な結末になる可能性が高い」という立場をとっている。

 昨年12月中旬に制作陣はチョ・インソンがバリの海岸で拳銃自殺するシーンを収録したが、チェ・ムンソクディレクターは「悲劇的な結末を念頭に置いて撮影した予備的な映像であるだけ」と説明した。しかしチェディレクターは「ドラマの全体的な流れが“完成”ではなく“破局”に向かっている」とヒントを与えた。

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