【ソウル聯合ニュース】米映画「ミナリ」で普遍的だが型破りなおばあさんを演じ、ハリウッドを魅了した韓国のベテラン女優、ユン・ヨジョン(73)はデビュー後55年間に、90作品を超える映画とドラマに出演した。
同年代の女優たちが美貌などを武器にスターの座につき、主役を射止め、年を取ってからは成熟した美しさを強調する過程を歩んだとしたら、ユン・ヨジョンはデビュー早々、強烈な作品に挑戦し、年齢を重ねても同年代の役者と異なる魅力を放つ演技を見せた。
ユン・ヨジョンは生計を立てるために演技をしたと語るが、その選択は演技の幅を無限に広げる結果を生んだ。
◇「ミナリ」での演技に賞賛
「ミナリ」は韓国系米国人のリー・アイザック・チョン監督が自身の体験を下敷きに、1980年代に希望を求めて米国に移住した韓国人一家の物語を描いた。ユン・ヨジョンは娘夫婦を助けるために韓国から来たスンジャを好演し、25日(日本時間26日)に授賞式が開かれた第93回米アカデミー賞で助演女優賞を受賞した。
粉トウガラシや煮干しなど韓国の食材や持病のある孫に飲ませる韓方(韓国の伝統医学)の薬を詰めたかばんを携え、一張羅の服を着て遠路はるばるやって来たスンジャの姿は典型的な韓国のおばあさんだ。
しかし、スンジャは異国の地で苦労する娘を見ながら涙を流して悲しむどころか、前向きな姿勢で活力を吹き込む。孫を愛しているが、孫の駄々には付き合わない。米国のおばあさんのようにクッキーを焼く代わりに花札のやり方を教え、毒舌もためらわない。
スンジャはチョン監督が自身の祖母を反映させ作り出した人物だ。しかし、チョン監督はユン・ヨジョンに対し祖母をまねる必要はないと言い、ユン・ヨジョンもその点が気に入ったと振り返っている。
作中で孫のデビッドはスンジャに対し「おばあちゃんらしくない」と言うが、このせりふは「ユン・ヨジョンが演じるスンジャ」を代弁している。
外国メディアは「ミナリ」のスンジャと70代の韓国女優、ユン・ヨジョンに対し高い関心を示した。米誌フォーブスはユン・ヨジョンの50年以上の芸歴を紹介しながら「独特なおばあさん、スンジャを演じた」と報じた。米紙ニューヨーク・タイムズは「ミナリ」でのユン・ヨジョンの役柄を説明しながら「映画が好きならば彼女のことも愛すべきだ」と評価した。
◇鮮烈な映画デビュー
典型的でない演技はユン・ヨジョンが女優として追求してきた信念でもある。最近のインタビューで「一生の目標は、何をするにも(人と)違うことをすること」と語っている。
ユン・ヨジョンは、韓国映画の怪物と称される故キム・ギヨン監督の「火女」(1971年)で勤め先の家の主を誘惑する家政婦を演じ、鮮烈な映画デビューを飾った。2作目もキム監督の作品の「虫女」(1972年)に出演。成功を収めた実業家の妾で、ヒステリーがエスカレートしていく主人公を演じ、当時の20代の女優とは異なる路線を歩んだ。1971年から72年にかけて放送されたドラマ「張禧嬪」では悪女を演じ切り大きな注目を浴びた。ドラマに夢中になった視聴者から嫌われ、CMを降板するというハプニングも起きた。
結婚、渡米、離婚でブランクがあったが活動再開後の出演映画で演じた役は並外れている。イム・サンス監督の「浮気な家族」(2003年)では、主人公の姑で、夫が闘病中であるにもかかわらず不倫を宣言するホン・ビョンハンを演じた。正直を通り越し図々しいビョンハンは、韓国映画によく登場するわが子を思う気持ちが強い母親とはかけ離れている。
「蜜の味~テイスト オブ マネー~」(2012年)では財閥会長夫人のペク・グムオクに扮し、拝金主義の最上流階級の欲情や執着を表現した。「バッカス・レディ」(2016年)では貧しい高齢者を相手に身を売る年老いた売春婦役で登場し、韓国社会の暗い現実に切り込んだ。
最近は小規模でも信頼する若手の作品に快く出演したり、演技スタイルの変化を試みたりした。
韓国ドラマではやや典型的なおばあさんやお母さんの役を演じてきたが、できるだけ自分色に染めたキャラクターに生まれ変わらせた。こうした傾向は大御所脚本家、金秀賢(キム・スヒョン)氏の作品に出演するようになってから目立つようになった。ほかのスター脚本家の心もつかんだユン・ヨジョンだが、女優人生を語る上で、金氏は欠かせない存在だ。
金氏はユン・ヨジョンが米国での結婚生活で辛かった時期に慰め、離婚後は復帰できるよう助けた。カリスマがあり気難しくも都会的な役にユン・ヨジョンを起用した。
ユン・ヨジョンが米国から帰国後、再起を果たすことができた作品は金氏が手掛けたドラマだった。再起に成功してからもドラマで数多くの役を個性豊かに演じ、視聴者に強い印象を残した。