「映画に高級住宅として登場するパク社長宅だけでなく、ほとんどの空間をセットとして作った。ところがカンヌ映画祭の審査委員たちですら、その内部空間がセットだと気付かなかったらしい。審査委員長のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督も『パク社長宅として出てくる場所はどこか』と尋ねるほどだったので。それくらい完成度が高いと言われているようで、胸がいっぱいだった」
今年のカンヌ国際映画祭で最高賞の「パルムドール」を手にしたポン・ジュノ監督の『パラサイト』(原題『寄生虫』)が、韓国国内でも公開された。ソウル市内の映画館「CGV竜山」6スクリーン(およそ1200席)で行われた試写会と懇談会には、ポン監督のほかソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、チャン・ヘジンなどが出席した。この日、ポン監督は「カンヌ映画祭での受賞は既に過去となり、今こそ本当の観客の声を聞いてみたい。時間ができたら、ちょっと変装して映画館に行くつもり」と語った。
■「本当の観客の声を聞きたい」
『パラサイト』は、記号学の教科書を読むかのように、明瞭かつはっきりとテーマを伝える映画だ。現代社会の二極化問題を極端に誇張した、一編の寓話としても読み取れる。
同作は、ギテク(ソン・ガンホ)の長男ギウ(チェ・ウシク)が、パク社長(イ・ソンギュン)宅で家庭教師を務めるようになったことで繰り広げられる出来事を描くブラックコメディ。半地下の住居で暮らすギテク一家の暮らしと、高級邸宅で暮らすパク社長一家の暮らしが克明に対比され、人々の衝突が絶えない階段を上り下りする姿で描かれる。「階級」という社会学的素材を、上下の空間の分離を通じて図式的に解釈してみせたのだ。ポン監督は「金持ちと貧乏が奇妙な縁で絡み合う物語を、現代社会の基本単位である家族として展開させてみようという考えから出発した」と語った。
人と人との間の線やにおいのように、目には見えなくとも直感的に伝わってくるイメージを階級対立のモチーフとして活用した点も秀逸だ。劇中のパク社長は、線を越えたり悪臭を漂わせたりする貧乏人への軽蔑を露骨に示す人物。こうした態度は、最終的な破局を予告している。ポン監督は「人間の尊厳に関する物語でもある。礼儀をどこまで守るかによって、寄生で終わらず、互いに共存、共生を夢見ることができるのではないかと思う」と語った。
■隠喩より説明が多いのが残念
これまでのポン監督の作品の中でも秀作と言えるのは間違いない。だが『グエムル-漢江の怪物』『母なる証明』などで見せてくれた、ポン・ジュノ監督らしい隠喩を好むのであれば、本作は説明があまりに多いと感じるかもしれない。ある映画関係者は、ポン・ジュノ監督の名前に「説明(explain)」という単語を引っ掛けて「『ポンスプレイン』がちょっとあるな」と語った。いくつかのセリフが過剰なほど親切にテーマを伝えるところは、大衆社会学者の流麗な講演のような印象も受ける。もちろん、テーマを解釈しようと頭を使わなくてもいいという点で、同作は観客を引き込み、非常にスピーディーに展開する。
誰一人として欠かせないほど、キャストらの演技も見事だ。とりわけ、長男役のチェ・ウシクが際立っている。平然とした表情で巧みにウソをつきながら、富に対する猛烈な欲望を感じている、20代の青年を演じた。『新感染 ファイナル・エクスプレス』『オクジャ/okja』などで顔を知られるようになったチェ・ウシクは、今作でソン・ガンホ並みの重みある演技を披露した。
パルムドールを受賞したことで、前売率が急速に伸びている。映画振興委員会・映画館入場券統合ネットワークによると、同日午後11時現在で前売率は53.7%(31万718人)で、首位を記録。2位の『アラジン』の2倍以上だ。このほか、米紙ニューヨーク・タイムズは5月27日(現地時間)、「アカデミーは『パラサイト』に注目すべきだ」とした上で「韓国映画がアカデミー賞で外国語映画賞を取ったことはないが、配給会社がまともにやれば、『パラサイト』は外国語映画賞にとどまらず、監督賞や脚本賞の候補に挙がるかもしれない」と評した。