「私は瞳が好き。ときどき『瞳で演技をしたい』と変なことも言ったり。人の目には物語があると思う」
過去20年間、イ・ナヨン(39)は大きな瞳をしていた。イ・ナヨンは瞳で話しかけ、眼差しで動いた。11月21日公開の映画『ビューティフル・デイズ』でも、イ・ナヨンはやはり冷ややかな「目」でスクリーンを占領した。6年前に映画『ハウリング』に出演した後、俳優ウォンビンと結婚して活動を休んでいたイ・ナヨンの復帰作だ。長編の演出は初めてという新人ユン・ジェホ監督の低予算映画を復帰作に選んだことで、話題になった。シナリオを読んで是非出演したいと思い、ギャラも受け取らなかった。11月13日にソウル市鍾路区三清洞で会ったイ・ナヨンは「中国映画『活きる』のように、1人の人間の一代記を独立映画のスタイルでざっと取り上げたところにすごくひかれた」と語った。
『ビューティフル・デイズ』は、いくら争っても抜け出せない不幸を描く作品。中国で暮らす朝鮮族のジェンチェン(チャン・ドンユン)は、体の具合の悪い父親(オ・グァンロク)の頼みを聞き、14年前に家を出た母親を探しにソウルへやって来る。ようやく探し出した母親(イ・ナヨン)は居酒屋で働いており、そんな母親の姿に怒り、傷つく。そうして中国に戻るジェンチェンは、母親がこっそりかばんに入れておいた日記を読むことになる。
映画は主演イ・ナヨンが全身で経験する受難史に近い。劇中、誰も脱北女性である彼女の名前を呼ばない。「ジェンチェンの母親」「あいつ」「あの女」といった呼び名で呼ばれるだけだ。中国のブローカーに利用されて契約結婚し、居酒屋で働き、麻薬の密輸にまで身を投じる。「どうにか生きてきて、どうにか生きていく女性だと思った。野生動物のように生きるために暮らすので、どれほど衝撃的なことが起きても黙って受け入れる。これが、14年ぶりに息子と会っても涙一滴流さない理由」