「そこは老舗なの? ニュープレイスではなくて?」。米国ニューヨークで10年ほど暮らし、最近韓国に戻ってきたデザイナー、カン・ハンナさん(33)は少し前、友人たちとソウル市麻浦区にある創業40年の中国料理店でバースデーパーティーをした。カンさんに「新しい店も多いのに、どうしておじさんたちがよく行くような老舗でパーティーをしたのか」と尋ねると、カンさんは「古い場所ほど私には新しく感じられる」と答えた。「美しく飾り立てた場所は世界中のどこにもあるではないか。一方、伝統と歴史がある食堂は貴重だ。おじさんたちがよく行くような古びた名店が実は本物だということ!」
「おじさんたちが通う食堂」が最近、若い世代にとって新たな聖地として浮上している。若者たちにとっては乙支路がブルックリンで、普光洞がショーディッチだ。古びた場所ほど熱狂する。延南洞、笠井洞、草洞、回基洞、老姑山洞、トソン洞などをめぐり、あちこちでおいしい店を見つけるのを宝探しのように楽しむ。古いものを新しく楽しむ「ニュートロ」現象の一つだ。ひいては外国に比べソウルの味・趣はすばらしいという、一種の自信のあらわれだ。
◆おじさんたちに人気の店が聖地に
11月8日午後、ソウル市中区筆洞は大雨が降っていた。会社員のチェ・ジウンさん(27)は「こんな日はここに行かなければ」と言い、創業30年以上の焼き鳥店を訪れた。テーブルが六つしかない店内は客でいっぱいだった。チェさんは「写真を撮るのが趣味なのだが、ソウルの風景は常に変わっている。なくなってしまう前に記録しておこうと、老舗めぐりを始めた。写真に歴史を残す楽しさ、年月を味わううれしさがあるほか、価格も安く味もいい。これぞ本当の小確幸(小さいけれど確かな幸せの意)」と語った。社長のイ・ジョンシムさん(65)は「最近、若いお客さんが押し寄せ、手に負えないくらい」と話している。「みなさん、どうやってここを知って来るんだろう」
おじさんたちが通う店は一般的に、狭く古びた路地にある、地図を見ながら探してもなかなか見つけられないような場所ばかりだ。10-20代にはそういう点も魅力ポイント。大学院生のキム・ビョルさん(27)は「見つけにくい場所であるほど、発見したときの快感がある」と語った。「ほかの人が知らない場所を見つけるのは、これくらいの苦労は仕方がない。奥まったところにあればあるほど、看板が古くなってよく見えないほどいい」という。ようやく見つけた店の写真を撮り、自慢するのがお決まり。写真共有ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「インスタグラム」で「♯老舗」というキーワードで検索すると、4万7000件以上ヒットする。「♯老舗の名店」「♯老舗ツアー」のようなキーワードで検索しても、数百件出てくる。キムさんは「『♯教えない』というキーワードも好き」と語った。「自分だけの秘密として大切にしたい名店という意味ではないか。ふつうは位置タグもついていないが、それを見て食堂を探し当てたときの喜びは言葉では言い表せない」
◆外国人もおじさんたちが通う店が好き
10-20代にとっておじさんたちが通う店は、一度行ったらまた行きたくなるテーマパークのように認識されている。乙支路3街は略して「乙3」と呼ばれ、「マンソンHOF(ビアホール)」などで有名な乙支路ノガリ(干しダラ)横丁はドイツのオクトーバーフェストよりいいという意味の「乙フェ」と称され、多くの人が訪れている。カン・ハンナさんは「本物を一度味わったら、ほかはつまらなく思えるのではないか」と語った。
韓国を訪れる10-20代の日本人や中国人観光客の間でも、韓国のおじさんたちに人気の店が話題となっている。少し前にこの世を去ったSHINeeのメンバー、ジョンヒョンがよく行っていたという西橋洞の古い豚足店は最近、日本のファンたちが訪れ、涙を見せながら食事をしているという。
「酒を飲むのにいい店」として知られる乙支路のタラ鍋店、エイの和え物が有名な益善洞の食堂も、若い外国人観光客が 押し寄せる場所だ。