「無害でステキな男? 悪役にも挑戦したい」
俳優チョン・ヘイン(30)には「無害」という表現が付いて回る。誰にも害を与えない男という意味で、視聴者が名付けた。最近放送が終了した総合編成チャンネルJTBCのドラマ『よくおごってくれる素敵な姉さん』で熱演した、純粋でさわやかな年下男キャラのおかげだ。女性を壁に押し付けたり腕をぎゅっとつかんで引っ張ったりと、直接的・間接的な暴力を加える男性主人公がはびこるテレビドラマで、三十歳のおとなしい青年が女性のハートを揺さぶった。
ソウル市鍾路区三清洞のカフェで5月24日に会ったチョン・ヘインは、ちょっとした質問一つにもしばらく考えてからゆっくり答えた。チョン・ヘインは「自分で考えてみても、無駄に真剣なところが多い」と言って笑った。「ステキな男」という修飾語については「称賛は感謝しているが、単に『ステキな男』として消費されたいとは思わない」と話し、信念ある一面を覗かせた。ドラマで最も記憶に残っているせりふは「理由があるんじゃなくて、ただ君だから好き」だという。「相手そのものをいとおしむことができる男性キャラクターで、視聴者からかなり応援してもらったみたい」
「人気俳優」の隊列に加わることになったが、突如として手にした人気ではない。チョン・ヘインとタッグを組んだアン・パンソク・プロデューサーはインタビューで「新しいスターの誕生はおおむね外見が関係しているが、チョン・ヘインというスターは外見ではなく、演技力で誕生した」と称賛した。実際、チョン・ヘインは静かにしっかりと自分の地歩を固めてきた。2014年にテレビ朝鮮のドラマ『百年の新婦』でデビューした後、武士(tvN『三銃士』)、天才学者(KBS『ディア・ブラッド-私の守護天使』)、東大門市場で衣類を扱う露天商(映画『ソウルの月』)など、さまざまなキャラクターを演じ、コツコツと基本の技を磨いてきた。チョン・ヘインは「不安になって焦っていたら、この時期を耐えることはできなかっただろう。ほかの俳優に比べてデビューが遅かっただけに、学ぶという気持ちで落ち着いて一作一作に臨んだ」と語った。
広く顔が知られるようになり始めたのは、デビューから2年たった16年末。tvNのドラマ『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』でキム・ゴウンの初恋相手を演じてからだ。昨年の『刑務所のルールブック』で再び注目され、今作で初の主役をものにした。
善良な模範生の役ばかりを演じてきたことについて、チョン・ヘインは「俳優として解決していかないといけない宿題」と答えた。「今後はラブコメのように明るい役や恐ろしい悪役にも挑戦してみたい」。朝鮮王朝後期の実学者・丁若鏞(チョン・ヤギョン)の直系6代孫ということも「乗り越えなければならない山」だという。「丁若鏞という名前を聞くだけでも、おのずと縮こまって恥ずかしくなる。迷惑にならないよう、もっと気を付けてちゃんとやりたいと思う」
チョン・ヘインは「幸せな俳優になること」が夢だという。「僕が幸せであってこそ、僕の演技を見てくれる視聴者も幸せになるのではないか。一日一日、与えられる仕事に感謝しながら幸せになり、演技で多くの方に幸せをもたらす俳優になりたい」