ここもカルグクス(麺料理の一種)店、あそこもカルグクス店。大田市内にはひときわカルグクス店が多い。なぜだろう。創業61年を誇る有名ベーカリー、聖心堂のキム・ミジンさんが答えてくれた。「6・25戦争(朝鮮戦争)が終わり、米国から援助された小麦粉が交通の要衝・大田から全国に配られたそうです。だから大田には小麦粉が豊富にあり、カルグクスなど粉食(粉物=軽食)をよく食べるようになったのでしょう。聖心堂も、私の義父が援助された小麦粉2袋を使い、大田駅前で始めたんです」
特徴のあるカルグクス店としてはデウォン・カルグクス、シンド・カルグクス、コンジュ粉食が挙げられる。デウォン・カルグクスは汁なしで、たれを和えて食べるビビン(混ぜ)カルグクス(6000ウォン=約600円)が独特だ。お湯ではなくスープに入れてゆでた麺にはかすかに味がついている。ツルツルしていてコシがある麺を、辛くて香ばしいたれと混ぜて食べると、のどごしがいい。肉と脂身の割合が程よいゆで豚(2万ウォン〈約2000円〉・3万ウォン〈約3000円〉)もおいしい。唐辛子みそだれをつけて食べるのも一風変わっている。印刷業者が集まる路地にあるシンド・カルグクスは、昔ここで働いていた運び屋たちが常連だった。肉体労働者ということで食欲旺盛だったため、量がとても多い。コンジュ粉食は煮干しだしのスープに春菊を入れて提供しており、強烈な辛さはしばらく忘れられない。
これと言って伝統料理のない大田だが、敢えて挙げるとすれば「トゥルチギ(豚肉、 野菜、キムチなどの炒め煮)」だろう。大きめに切った具材に辛いたれを加えて火を通す。40年の歴史を誇るクァンチョン食堂はでは作り置きせず、注文を受けてから調理する。「イカの値段が暴騰しています。高いイカより、柔らかく安い豆腐トゥルチギをオススメします」と書かれた紙が壁に貼ってあるのを見ると、イカの値段が上がっているのを実感する。豆腐トゥルチギ一人前1万2000ウォン(約1200円)、イカ・トゥルチギ1万9000ウォン(約1900円)。チンロ家も名の知れたトゥルチギ店。松家はイカとチョンガクキムチを入れて煮たイカチゲ(4000ウォン=約400円)が有名だ。手のひらサイズに切って揚げ焼きした、焼き豆腐(2万ウォン=約2000円)もおいしい。
聖心堂は大田旅行のスタートであり、ゴールだ。揚げそぼろパン、ニラパンが特に人気だが、大田旅行の思い出にするなら「大田ブルース餅」(1個2000ウォン=約200円)はいかがだろう。あんこが入った餅で、よりいっそうもちもちし、甘さ控えめで香ばしいものへと進化した。餅、まんじゅう、薬菓など伝統菓子を扱う聖心堂ならではの腕が感じられる。聖心堂本店はパン、ケーキブティックはケーキ専門だ。