今月14日、イ・ギョンミ監督(42)の新作『秘密はない』のメディア試写会が終わった後、取材陣の反応は目に見えて割れた。こうした反応は、23日の封切り後も続いた。ポータルサイト「ネイバー」で、同作に最低点(1点)と最高点(10点)をつけたネットユーザーはそれぞれ25%を占める。「今年見た映画の中で一番面白かった」という声から「見る時間がもったいない」という声に至るまでが、ポータルサイトや映画オンライン掲示板、ツイッターなどを駆け巡った。こうした反応のためか、同作の興行成績はぱっとしない。26日までの観客動員数は19万3729人。公開第1週の成績としては貧弱だ。
■「でたらめで煩わしい」vs「新鮮で強烈」
『秘密はない』は、典型的スリラー映画のように見える。国会入りを狙うアンカー出身の政治家ジョンチャン(キム・ジュヒョク)とその妻ヨンホン(ソン・イェジン)の娘が、選挙の半月前に行方不明になった。娘を見つけ出そうと苦しんだヨンホンは、選挙にばかり気が向いている夫と、事件をきちんと調べない人々に怒り、一人で娘の行方を追い始めた。娘を見つけ出さねばならない母親の孤軍奮闘を描いた映画に見えるが、実際はヨンホンの内面、意識の流れを追う映画に近い。ジャンルの慣習から抜け出そうとする努力が、ある人には面白くなく、別の人には新鮮に感じられるのだ。
同作は、『ミスにんじん』で長編デビューしたイ・ギョンミ監督が8年ぶりに撮った映画だ。『ミスにんじん』は観客54万人を動員したにすぎなかったが、当時、評論家の間では好評を博した。世の中に立ち向かって自分自身を守ろうとする女性たちをかわいらしく描いたこの映画は、好感を持てないキャラクターと不愉快なユーモアで多くのファンを得た。こうした特徴は、今回の作品でも続いている。慶尚道地方の国会議員に出馬した夫を持つヨンホンは全羅道出身で、選挙キャンプではにらまれる身の上だ。失われた娘を探そうと自殺や脅迫まで起こすヨンホンを、警察までもが見放す。極端で、尖ったところのあるキャラクターなため、「理解できない」という反応と「かわいくて切ない」という反応に別れる。映画の途中で画面とマッチすることなく飛び出してくる効果音や挿入曲、ミュージックビデオ形式の画面構成もまた、同じように「煩わしい」あるいは「強烈」という両極端の反応を引き出している。
■甲論乙駁の映画評、興行の後押しになるか
今年上半期に公開された『名探偵ホン・ギルトン:消えた村』(以下『名探偵ホン・ギルトン』)から、『哭声』、『アガシ』、『秘密はない』に至るまで、評論家や観客は、映画を見に行った後、それぞれ違う声を上げた。こうした甲論乙駁は、『名探偵ホン・ギルトン』『秘密はない』には悪い材料、『哭声』『アガシ』には良い材料としてはたらいた。例えば『哭声』は「人間関係が不透明であいまい」という評価を受けたが、観客はむしろ、これを推理して論争を繰り広げることに関心を持った。
ある映画制作関係者は、『秘密はない』について「誰もが好きになれる映画を作ろうとあれこれ手を入れたら、角のない映画しかできない。『検事外伝』のように、このところ興行で成功した映画はほとんどがそうだ。角がある映画は、全ての人が好むということはないだろうが、新たな試みを見せてくれる」と語った。精神科医のハ・ジヒョンは、『秘密はない』に対するネットユーザーの酷評を見て、ツイッターにこう書き込んだ。「ここ数年『大ヒット映画』を主に見てきた観客が、少し怖くなる。単純、明快、感動の爆発にばかりなじんでいる」。