今度の舞台は海ではなく山だ。
昨年、映画『鳴梁』で1760万人もの観客を集めた俳優チェ・ミンシクが、朝鮮最後のトラを描いた映画『大虎』でスクリーンに戻って来る。舞台は1920年代の智異山。トラの一家に魅了された日本人高官・前園(大杉漣)は、戦利品として大虎を手に入れるため、軍事作戦のように狩りに乗り出す。生き物を殺して業(ごう)を積み、疲れ果てて銃を置いた名猟師チョン・マンドク(チェ・ミンシク)が、10年ぶりに再び銃を取ることから繰り広げられる物語だ。
『大虎』と『鳴梁』は似ている。罷免された李舜臣(イ・スンシン)将軍が三道水軍統制使に再任され、勝つことが困難な海戦に臨んだように、猟師チョン・マンドクにも日本に立ち向かって守りたいものがあり、銃を取る。また、どちらの映画でもコンピューター・グラフィックス(CG)が大きな比重を占めている。『鳴梁』で実際に撮影に投入された船はわずか3隻だった。『大虎』は、植民地時代に絶滅したチョウセントラをCGでよみがえらせた。さらに「無愛想だが逆境に耐えてきた父・英雄の物語」という点も共通している。
寅年のチェ・ミンシクは、制作報告会で「韓民族が暗鬱としていた時代という部分よりも、人間の業を取り上げた作品というところに引きつけられた」と語った。「猟師は山の命を殺して生きていく職業だ。そうして積んだ業は、どうやって始末を付けるのか。今を生きる私たちにも多くの示唆を与える。言葉の暴力、さまざまな言葉が乱舞する時代に、行動に伴う業についてしっかり考えることになった」
12月16日に封切られる『大虎』は、チョン・マンドクとトラ、そして朝鮮の山が主人公。智異山の「山君」と呼ばれる大虎やチョン・マンドクは、時代に取り残された存在だ。パク・フンジョン監督は「自然と人が互いに尊重し合い、礼儀を守っていた時代は、日帝に代弁される欲望の時代が到来することで絶滅した。韓民族が畏れ敬う動物だったトラの最後の姿を収めたかった」と語った。
『大虎』は、総制作費だけでも170億ウォン(約18億円)に達する大作だ。爆破できる山がないのでセットを作り、雪原(3トン)も特別に作った。絶滅したチョウセントラを表現するのが最大の課題だった。体重400キロ、体長3.8メートルもある大虎の力やスピードをスクリーンに映し出さなければならない。チェ・ミンシクは「観客は『トラがどれほどよくできているか見てみよう』と思って来るのだろうが、CGだということを忘れるくらい、ストーリーの密度が重要だと感じた。強力なヒューマンドラマがこの映画を支配している」と語った。
大虎をつかまえなければならないという思いにとらわれ、チョン・マンドクと対決する猟師クギョン役は、俳優チョン・マンシクが務めた。チェ・ミンシクと初めて会ったとき「君はマンシクだから、私はミンシクで」と言われたという。チョン・マンシクは「チェ・ミンシクさんの推薦で、シナリオも読まずに出演を決めた作品」と語った。また、銃を撃つ訓練について、チェ・ミンシクは「軍隊に3年いて、予備役も何年か。韓国の男は銃を取った瞬間、本能的に構える」と断言した。
チェ・ミンシクは『鳴梁』に続いて再び観客動員数1000万人超えの記録を作ることになるだろうか。「チョン・マンドク」という役名は「千万(チョンマン)の恩恵(トク)にあずかりたい」という意味をにおわせているのは、と言われると、チェ・ミンシクはジョークで切り返した。「千万のお言葉、万万の豆餅です(とんでもない、全く違います)」