「作品のレッスンをしながら全国各地の『アリラン』を聞いた。胸がじいんとして涙が出た。よく知っている歌だと思っていたのに…」(アン・ジェウク)
「『アリラン』を歌う場面になると、皆疲労がどこかに飛んでいくようだ。不思議なことに」(ソ・ボムソク)
40代の男2人が真面目な表情で『アリラン』にほれ込んだ話を熱弁した。ソウル市内のLGアートセンターで上演されている大型創作ミュージカル『アリラン』で主人公を演じるアン・ジェウク(43)とソ・ボムソク(44)。2人は独立運動家で民族志士のソン・スイク役にダブルキャスティングされた。
俳優生活20年以上のベテランで、韓流スター第一世代ともいえるアン・ジェウクは最近『Le Roi Soleil(太陽王)』『皇太子ルドルフ』など大作ミュージカルで主演を務めたミュージカルスターでもある。アン・ジェウクが出演する日には中国や日本からやって来た女性ファンがロビーにあふれた。アン・ジェウクは今年初めに『アリラン』出演オファーを受け「ああ、ぜひやってみたい」と思ったという。「これまで自分でも知らないうちに、自分のことを『都会的で洗練されたイメージ』だと思っていた。俳優として、キャラクターは自分自身でつくっていくものなのに」。しかし、アン・ジェウクは6月にミュージカル女優チェ・ヒョンジュと結婚、『アリラン』の練習スケジュールと結婚の準備期間が重なった。アン・ジェウクが悩んでいることに気付いたチェ・ヒョンジュは言い切った。「ジェウクさん、後で後悔しないよう、とにかくやって! 私が全部理解するから」。新婚旅行を先延ばしにし、レッスンに集中していたところ、チェ・ヒョンジュの妊娠という、うれしいニュースが伝えられた。
これまでたくさんのミュージカルや演劇の舞台で主人公を演じてきたソ・ボムソクは最近、パンソリ(唱劇)名人を演じた『西便制』、慰安婦問題を扱った『コッシン(韓服〈韓国の伝統衣装〉用の靴)』、世宗大王役を演じた『根の深い木』など、土俗的で民族的な役が多かった。「僕にはそういうところがある。子どものころから、周りの友だちがナイキの靴に夢中になっていたとき、僕はゴム靴を履いてみたかった。今もポップソングよりパンソリや民俗遊戯にひかれる」。ソ・ボムソクは偶然、日本による植民地時代を描いた映画『アリラン』を手掛けたナ・ウンギュ監督の写真を見て、目を大きく見開いた姿が自分とそっくりで驚いたという。
2人は「ソン・スイクはほかの作品の主人公に比べて比重が低いが、演じるのが容易ではないキャラクター」と話している。ソ・ボムソクは「個人の幸せではなく、国のために私財を投じる人物だ。正義を信じ、思いやりのある人」とし、アン・ジェウクは「民族の痛みは誰でも一緒ではないか。つらければ泣きたいだろうに…。両班(ヤンバン=官僚階級)だからそういう感情を全て表に出すことができず、非常に節制された演技が求められる」と語った。
それでなくても毎日苦しい生活を送っている観客が、ミュージカルでまで「受難の物語」を目にしなければならないのか。アン・ジェウクが声を高めた。「受難の歴史を経験したが、われわれはそれに耐え、結局生き残ったではないか。この作品は、そんな人生を見せるものだ」。ソ・ボムソクが相づちを打った。「絶対に暗鬱な作品ではない。むしろ明るく肯定的なエネルギーと希望を与えるミュージカルだ」