大人にもファンタジーが必要! 注目作『アングリー・マム』

▲『アングリー・マム』のチョ・ガンジャ(キム・ヒソン)は女子高生を装い、娘をいじめる生徒たちに自ら仕返しをする。世の母親たちが自分のことのようにスッキリするシーンだ。/写真提供=iMBC
▲ ▲『アングリー・マム』のチョ・ガンジャ(キム・ヒソン)は女子高生を装い、娘をいじめる生徒たちに自ら仕返しをする。世の母親たちが自分のことのようにスッキリするシーンだ。/写真提供=iMBC

 「子どもを産んで初めて一人前になるんだ」。ある先輩記者が言った言葉だ。子どもがいない後輩はピンと来ないが、子育て真っ最中の後輩はうなずく。子どもは親から生まれるが、親とは別の「もう一つの世界」だ。その世界を完全に抱え込むことはできないが、力の限り責任を取ることができなければ一人前ではない。MBCの水木ドラマ『アングリー・マム』のヒロイン、チョ・ガンジャ(キム・ヒソン)も子どもを生んで一人前になった。高校のころは「ポルグ浦の刺し身」と呼ばれた「ワル」だったが、今では頭の中が反抗期真っ最中の高校生の娘(ご多分に漏れず出生の秘密がある)でいっぱいだ。

 娘は目に入れても痛くないというが、他人にたたかれて帰ってきたら親まで痛みを感じるのも、娘だからだろう。その娘が学校でいじめられた末、病院の精神科に入院したことから、「ポルグ浦の刺し身」がよみがえる。ドラマの世界ではいつも、学校も法律も役に立たない。チョ・ガンジャはヤクザになった昔の仲間の助けを借り、女子高生を装って自ら問題解決に乗り出す。

 無理があるのは承知の上だ。一世を風靡(ふうび)したした人気女優キム・ヒソンでも、37歳で制服を着て女子高生になり学校に潜入するという設定は、さながら「ファンタジー」だ。『アングリー・マム』はいじめの実態をリアルに見せるため、残酷に、そしてファンタスティックに展開するユニークなドラマだ。教師と生徒のスキャンダル、私学不正、さらには殺人という極端な状況まで、教育現場の暗い影を血と罵倒で演出、拒否感すら感じる。教師も生徒も制服を着たキム・ヒソンを疑うことなく女子高生として受け入れている点については「あ、これドラマだったっけ?」と、アツアツのキムチチゲに生卵を入れたときのような煮え切らなさを感じる。

 問題は、そのあきれるほど殺伐としたファンタジーがこのドラマのストーリーを引っ張っていく最も強い力という事実だ。フィクションだと知りながらも、アラフォーのキム・ヒソンが娘をいじめた生徒たちの頭や胸ぐらをつかんで揺するとき、自分のことのように満足感や喜びがわき上がる。「自分の娘は自分で守る!」という母親たちだけではない。いじめの被害者が実は教師と不倫関係で、その教師は私学不正に深く手を染めていて、その不正を隠すためにとうとう殺人事件が起こるなど、母親が一針一針編むマフラーのように綿密に練られたストーリーは、子どもがいない視聴者もとりこにする力がある。しっかりとしたストーリーがストレート・パンチなら、巧みに書かれたセリフはアッパーカットだ。 「私の口に入るよりも、娘の口に入った方が満腹感がある、それは母親だからだ」「愛が足りなくて人間になれなかったヤツはいても、いじめが足りなくて人間になれなかったヤツはいない」「木がまっすぐ伸びなかったからといって太陽が怒る? 雲が雨を降らせない? 教育ってのはそういうことだよ」などのセリフは胸に染みる。

 ところどころ不安なシーンはあるが、キム・ヒソンは女子高生(のように見えなければならない)役を抵抗なくこなせる若さと演技力を持つ貴重な女優であることが証明された。コ・スヒ(ハン・ゴンジュ役)やキム・ヒウォン(アン・ドンチル役)など役になり切っている演技派俳優たちが裏でしっかり支えているのも見逃せない。俳優キム・テウの弟、キム・テフン(ト・ジョンウ役)も見た目は優しそうだが実はひきょうな二重人格的な人物を、兄に劣らぬ演技力でこなしている。ストーリー・セリフ・演技がこのとんでもないファンタジーをリアルにしている。いや、そうしたファンタジーがあるからこそ、むごい現実に耐えられるのかもしれない。時には大人にもファンタジーが必要なのだ。

金潤徳(キム・ユンドク)記者、 兪碩在(ユ・ソクチェ)記者、 権承俊(クォン・スンジュン)記者
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