映画『ビッグマッチ』(11月26日公開)は、観客の頭ではなく、運動神経を刺激する。主演俳優イ・ジョンジェ(41)は112分間にわたり、休む間もなく拳や足を突き出し、走り、体を投げ打つ。一人称視点のアクションゲームのように緻密に構成された画面のおかげで、観客も一緒に全力疾走している感じを受ける「娯楽アクション総合ギフトセット」(チェ・ホ監督)だ。このような映画に対し、叙事やキャラクターについてあれこれ言うのは野暮ったい。ファストフードのハンバーガーには、迅速で手際の良い快感という美徳があり、『ビッグマッチ』はそんな牛肉のパティをおいしそうに焼き上げた。
11月24日、ソウル市鍾路区三清洞のカフェで会ったイ・ジョンジェは「最初に出演のオファーをもらったときは、僕より10歳ぐらい若い俳優が演じる役だと止める人もいた。でも、これ以上年を取る前に必ずやらなければと思った」と言って笑った。イ・ジョンジェが演じた役は、拉致された兄(イ・ソンミン)を助けようと、都市全体を舞台に不可能な戦いを続ける格闘技選手チェ・イクホ。謎の設計者エース(シン・ハギュン)は、モニターの後ろに隠れる富豪たちのため、イクホを将棋の駒として担ぎ上げ、巨額の賭博を繰り広げる。兄を殺すという強迫に、イクホはゲームのキャラクターのように操作されながら、徐々に危険な死地へと吸い込まれていく。
イ・ジョンジェは「建物の屋根から飛び降りたり、ジャンプでバスを飛び越えたりする高難度のスタントを除き、アクションシーンの80%ぐらいは自分でこなした」と話した。イ・ジョンジェのアクションは、そのままこの映画の面白さとなる。手狭な警察署のオフィスでは、手錠をかけられたまま刑事15人をまく。グラウンドでは、盾や棍棒を持った戦闘警察(機動隊)62人と対峙(たいじ)し、逃げる。違法賭博場の建物の狭い廊下では、刃物を持ったチンピラと数十対1の戦いもいとわない。
イ・ジョンジェは以前から、演じる役が厳しい状況に直面したとき、観客の共感を高める独特な俳優だった。映画『太陽はない』『オー! ブラザーズ』に出演後、犯罪組織に潜入した刑事役を演じた『新しき世界』まで、イ・ジョンジェが構築したキャラクターは不条理な状況に置かれたとき、さらに深い「同情を誘う哀愁」を見せた。