「いまだに折り畳み式携帯電話を使っているのは僕だけ」と文句を言う息子(EXOのD.O.)に、母親ソニ(ヨム・ジョンア)は「携帯電話、すぐに変えてあげる。ママ、正規雇用になるじゃない」と答える。手当もない残業を嫌がらず、大型スーパーのレジ係として長く働いた。「5年働いたら正規職にする」という会社の約束を固く信じていた。しかし、会社は一方的にパート従業員に解雇を通知する。迷惑な客の前でひざまずく屈辱を受けても我慢しながら、生計を立てるため辛抱していたパート従業員たちは「私たちの話も一度でいいから聞いてほしい」と訴える。しかし、会社側は無視。パート従業員たちは労働組合を作り、生まれて初めてストライキを起こすことに…。
韓国全体の賃金労働者は1878万人、そのうち32.4%の608万人が非正規雇用だ。11月13日に公開された映画『カート』(プ・ジヨン監督)は、スーパーの女性レジ係たちのストライキを通じて、他人事ではない非正規雇用問題に正面から向き合う。主演女優ヨム・ジョンアの好演が光る。公開前、ソウル市鍾路区三清洞のカフェで会ったヨム・ジョンアは「周りの小さな声に耳を傾け、一度振り返るきっかけになれば」と語った。
-共演者キム・ガンウは「自分が出た映画を見ながら泣いたのは初めて」と言っていたが。
「登場人物たちの感情の機微が上手く描かれていたようで、うれしかった。私は労働組合の座り込みを見ると『なぜあんなことをしてるんだろう』と思いながら通り過ぎていた普通の人だった。ところが私が『当事者』になって数カ月過ごしていたら、とても悔しかった。自分のミスではないのに不当な扱いを受け、誰も自分の話を聞いてくれないので。最近では、スーパーに買い物に行くと、レジ係の方が他人のような気がしない」
-そのように悔しく不当な経験はあるか。
「私は悔しいことを我慢するタイプ。ところが映画の状況は、我慢できる限界を超えているではないか。ほかの人に誘われて行ったおばさんが『私と家族』ではなく『私たち』のための選択をする。窮地に立たされた人たちの気持ちが一つになるのを感じたその瞬間は、言葉で表現するのが難しいほど、とにかくすごかった。まるで実際のことのように驚くべき経験だった」