慶尚南道山清郡には石垣が美しい村がある。下の方は大きめの石を積み、その上に小さな石や土を交互に積み重ね作った、高さ2メートルほどの石垣。典型的な農村の家々を取り囲む石垣は、独特の味わい深い風景を生み出している。
昔から「着る物に困らず、空腹知らずの村」と言われるほど権力者や富農が多く、昔ながらの古い邸宅が並ぶこの村は、同郡新等面にある「丹渓村」だ。
丹渓村の第一印象は普通の農村と変わらない。村の中心部に大通りがあり、脇に小さな川が流れている。しかし、村をじっくりと回ってみると、その印象は180度変わる。
この村がほかと違うことは、まず村の治安を守る交番を見れば分かる。2階建ての交番は立派な瓦屋根が2段になり、左右にぐんと広がっているからだ。また、村の小学校正門はいにしえの書院のように三門からなり、扁額(へんがく)には「数飛門」と書かれている。「数飛」とは「ヒナが羽ばたきを習う」という意味だ。
このほかにも、村のほとんどは近代的な建物だが、屋根だけは伝統的な韓屋(韓国家屋)の様式に倣っている。
村の自慢は、道沿いに延々と続く石垣だ。「丹渓村の石垣」と呼ばれており、農村の美しさと情緒がにじみ出ている。この石垣は2006年6月19日、文化財庁から韓国登録文化財第260号に指定された。
石垣のある道を歩くと、まるで迷路に足を踏み入れたような気持ちになる。石垣は高さが2メートルもあり、韓国人の平均身長(男性:175.26センチ、女性162.56センチ)より高い。そのため、見えるのは道と石垣、そして石垣より高い建物の軒先だけだ。
石垣を歩いていると、途中で古い邸宅にぶつかる。地方文化財に指定された6、7軒の古い邸宅は長い歳月の跡を抱き、その土地を守っている。残念なのは、そのほどんどが現在、住人がおらず、放置されていることだ。数軒には住んでいる人がいて管理できているが、それ以外は廃虚のようになっている。
そうした中で最も印象的なのは「朴氏旧邸」だ。この邸宅は仁祖8年(1630年)に建てられた伝統韓屋で、母屋と別棟、玄関脇の建物が「コ」の字型の平面構造になっており、韓国南部地域の典型的な豪農の邸宅様式を示している。
こうした古い邸宅だけでなく、村には改装された韓屋もある。それは昨年2月にオープンし、韓屋生活を見学・体験できる「聿修園」だ。「自ら徳を磨く家」という意味を持つ聿修園は、かつて順天朴氏の旧邸があった場所に、地域性を反映させ新たに建てられた「韓屋ステイ施設」だ。
ここは伝統韓屋の品格に現代的な実用性を取り入れ、居心地の良いリラックスできる空間ということで、韓国観光公社から「優秀韓屋ステイ施設」に認定された。聿修園訪問や施設利用時は予約が必要だ。
どの観光スポットに行くにしても、外見だけで判断するのは難しい。丹渓村も同じだ。外見はこれと言ったもののない静かな農村だが、小さな道に隠された村の風景を目にすれば、その印象は変わるだろう。