月曜日の朝になると、スーツ姿の会社員たちの話題は断然、週末夜に放送された金土ドラマ『未生』(tvN)のことになる。インターネット上には『未生』語録がまとめられ、「自分のことのようだ」と絶賛コメントが後を断たない。10月17日にスタートした『未生』は、同月25日にケーブルテレビチャンネルとしては異例の視聴率3.6%(瞬間最高視聴率4.9%、ニールセンコリア調べ)をマーク、放送されるたびに自己最高視聴率を更新している。囲碁棋士を志望していた高卒の主人公チャン・グレ(ZE:Aシワン)がプロ入りの夢を果たせず、総合貿易商社に入って苦労するというストーリーが人気を集め、放映前から既にベストセラーだった原作漫画も、放映後さらに売上を伸ばし、一日2000セット以上も売れている。そしてついに同月26日には売上部数100万部を超え、今年初のミリオンセラーとなった。
■不安だからのめり込む
韓国の囲碁では、眼(石の塊によって囲まれている部分)が二つ以上で絶対に相手に取られない石の状態を「完生(活き石)」、その前の段階で相手に取られる可能性があり、活き石か死に石(相手に取られる石)かまだ分からない状態を「未生」という。韓国雇用情報院は10月27日、労働者3148人を対象に実施した職業価値観検査の結果を発表、最も重要な価値の1位に選ばれのは「職業の安定」だった。ドラマ評論家ユン・ソクチン氏は「会社こそ最も現実的な戦場。現実の不安をとらえ、赤裸々に見せるドラマ手法が功を奏した」と話す。視聴率調査機関TNmsによると、25日放送分の男女別・年齢別視聴者層1位は20代女性(4.2%)だった。同社のキム・ギフン局長は「20代女性が40代・50代を抑えて視聴者層1位になるのは非常に珍しい。新入社員・契約社員の悲哀を味わう主人公の境遇に共感しているからだろう」と語った。
■万年「負け組」でも美しい
たとえ未生であっても、まだ「死に石」と決まったわけではない。職場の人々は冷たく厳しいが、ドラマではそこに花咲く友情と可能性に注目する。主人公チャン・グレを「コネ入社」と誤解して嫌うが、誤解のせいでチャン・グレがひどくしかられると、上司オ・サンシク課長(イ・ソンミン)が酔って「『うちの部下』ばかり怒られる」と愚痴を言うエピソード(第2話)や、チャン・グレが学歴の限界を打ち破って契約社員になったとき、いつの間にか仲間意識が生まれていたライバル社員ハン・ソクユル(ピョン・ヨハン)が「イエス」と叫ぶエピソード(第4話)などがそうだ。同ドラマ公式サイトの視聴者掲示板には「思わず感情移入してしまい、涙が出る」「ドラマではなくドキュメンタリーだ」という会社員たちの反響の声であふれている。tvNのイ・ジェムン・プロデューサーは「ワーカホリック(仕事中毒)だが人間的なオ課長のような人物は非現実的だと思っていたが、貿易・商社マンを取材するうちに『こういう人たちは身の回りにけっこういるんだ』という声をよく聞いた。こうしたリアリティーを盛り込んだことが(視聴者にとっては)癒やしになっているようだ」と語った。
■ドラマが人生の指針に
視聴者は、ブログやネット掲示板に「大人のふりをせず、大人らしく行動しろ」「碁盤の上に意味のない石はない」などのドラマの名ゼリフを掲載、「職場生活の十戒」にしている。原作漫画の舞台のモデルとなった商社「大宇インターナショナル」のホ・ソンヒョン取締役は「社長も役員たちにドラマを見るよう奨励している。実際の現場を思い起こさせ、後輩・部下たちが何を考え、どんな悩みを持っているかを理解するのに役立ちそうだ」と話した。同社は今年3月にプロデューサーや脚本家など制作スタッフを実際の部署に配属して職場生活を公開、8月には1週間にわたり、出演者たちに企業内教育訓練(OJT)を実施した。ホ取締役は「最初はドラマ撮影への協力に反対したが、ドラマを通じて社員同士がより親しくなるという効果があった」と話している。