素朴な趣と味を求めて…伝統を楽しむ済州島旅行

 安泰と秩序を守ってくれるとされる「トルハルバン」、石を積み重ねて作られた石垣、これらはいずれも済州島のシンボルだ。さまざまな風景を見せてくれる済州島でこれらのシンボルを見つけると、いっそう楽しくなってくる。

 これから紹介するのは、決して華やかではないが済州島の素朴な趣と味が感じられるもの。朝鮮王朝時代の官庁跡「済州牧官衙」と、済州島の伝統的なおやつ「ビントク」だ。いずれも今年、済州の「7大名品」に選ばれている。

◆都心で目にするかつての済州島の姿「済州牧官衙」

 「済州牧官衙」は済州市の北東部、済州国際空港と済州市庁の間の済州市中心街(三徒洞)に位置する。済州牧官衙は中心街の分かりやすい場所にあるが、だからこそ通り過ぎやすいともいえる。何気なく通りすぎれば、単なる「市内にある大きなあずまや」と思ってしまいそうな素朴な建物だ。

済州牧官衙は朝鮮王朝時代、済州の中心地の役割を果たしていた。
▲ 済州牧官衙は朝鮮王朝時代、済州の中心地の役割を果たしていた。

 だが済州牧官衙は朝鮮王朝時代、現在の観徳亭も含め済州地方の統治の中心地だった。耽羅国の時代から朝鮮王朝時代まで長期にわたり、済州の政治・行政・文化の中心地の役割を果たしてきた。

 済州牧官衙の中に入ると、同じように見えて少しずつ異なる建物が幾つも立ち並んでいる。大門の外では現代的な済州の風景が見られるが、中ではかつての済州の姿を垣間見ることができる。観光客がさほど多くないため、ゆったりと見学できる点もいい。

 建物に囲まれた最も内側には、2階建ての建造物「望京楼」がある。望京楼は、かつて王が住んでいた漢陽(現在のソウル)の方に向かって祈りをささげた場所だ。2階に上がると官衙の全景が見渡せる。望京楼の中には伝統的な遊び道具や杖などが飾られており、飽きずに見学できる。

牧官衙の中に入ると、済州のかつての姿が見えてくる。
▲ 牧官衙の中に入ると、済州のかつての姿が見えてくる。

 「中心街にある大きなあずまや」と間違えられやすい観徳亭は、柱だけで壁のない開放的な作りになっていて、休憩スペースや待ち合わせ場所として人気が高い。また屋根の内側の大梁(おおばり)には「十長生図」や「商山四晧」などの絵が描かれている。中に座って静かに周りの景色を眺めてみよう。かつての済州の素朴な姿が見えてくるはずだ。

■生活の知恵が宿った済州の郷土料理「ビントク」

 済州では各地で五日市場が開かれ、簡単な生活用品から食材までさまざまな商品が売られている。特に、済州市内の「済州民俗五日市場」は空港から近いため、市の立つ日には島民と観光客でごった返す。

 済州民俗五日市場で必ず食べてみたいのが、済州を代表する郷土料理「ビントク」だ。済州島の名産品であるタチウオや馬肉は済州島以外でも食べられるが、ビントクだけは済州島でしか食べられないからだ。

済州五日市場ではさまざまな品物が売られている。
▲ 済州五日市場ではさまざまな品物が売られている。

 ビントクの作り方は簡単。そば粉をこねて薄く広げ、大根の千切りを乗せてくるくると巻くだけ。この「くるくる」という意味の韓国語「ビンビン」がビントクの名前の由来だ。また「むしろ(韓国語でモンソク)」のように巻き上げるという意味で、モンソクトクとも呼ばれる。

 今ではわざわざビントクを食べることを目的に済州を訪れるケースもあるが、かつてビントクは済州の人々にとって、食べることに困窮していた貧しい時代の食べ物だった。ビントクには人々の生活の知恵が宿っている。石が多く作物が育ちにくい済州では、やせた土地でもよく育つソバを植え、ソバを食べる方法としてビントクを考案したのだ。食糧難にあえいでいた済州の人々にとって、ビントクは重要な栄養源だった。

済州の人々の智恵が宿った郷土料理「ビントク」。
▲ 済州の人々の智恵が宿った郷土料理「ビントク」。

 ビントクはソバのコシと大根のシャキシャキした歯ざわりがよく合い、あっさりした味わいだ。あまり味がしなくてつまらないという人もいるが、刺激的ではない素朴な味が逆にリピーターを生んでいる。豚肉入りスープや焼きアマダイと並び、ビントクが済州の7大郷土料理に堂々と名を連ねる理由も、まさにこの味にある。

 旧盆や旧正月になると、ビントクを祭祀(さいし)の供え物にする家も多いという。それほどビントクは長い間、済州の人々のおなかを満たしてきたのだ。このように済州島の人々の生活と深く関わっているビントク。済州島の「本当の味」を知りたいなら、是非ともビントクを食べてみてほしい。

<記事、写真、画像の無断転載を禁じます。 Copyright (c)Chosunonline.com>
関連ニュース