目を合わせたとたん、なめていたアメをテーブルの上に置いて立ち上がり「こんにちは」とあいさつしてくれた。リズムを打つような柔らかな声だ。しっかりした小児外科医というよりも、27歳の女性という印象の方が強かった。女優ムン・チェウォン(27)。
今月8日に放送が終わったKBSの『グッド・ドクター』で、フェロー(レジデント〈研修医〉を終えて教授になる前の段階の専門医)2年目のチャ・ユンソ役を演じたムン・チェウォンは「今になってようやく『また一つ終わったんだ』と感じている」と語った。『グッド・ドクター』は小児外科病棟に自閉症を患うレジデント、パク・シオン(チュウォン)がやって来たのを機に展開されるさまざまなエピソードが描かれた。不安定だが意欲のある天才シオンに、ユンソは思いを抱く。ムン・チェウォンがこの作品を選んだ理由もここにある。「自閉症の医師という設定は、医療ドラマとしては二度とないかもしれない。そこで生まれるラブストーリーなら、私が作っていける部分もあるのではないかと思った」
ムン・チェウォンは、出演すれば作品が必ずヒットする女優だ。SBS『風の絵師』(2008年)、『華麗なる遺産』(11年)、KBS『王女の男』(11年)、『優しい男』(12年)など、出演作はいずれも高視聴率をマークし、『グッド・ドクター』も平均17.9%で同時間帯のトップだった。ムン・チェウォンはこれについて、自身の「選球眼」がよいのではなく「人に恵まれたから」と謙遜した。
ドラマでは、できる限り本物の医師に見えるように努力したという。メークも最低限にし、爪も短く切った。ムン・チェウォンは「第1話を見た母が『チークをもう少し入れたら』と言ってくれたけど、どう考えても医師がチークを入れる時間はないと思ったのでしなかった」と笑顔で答えた。
『グッド・ドクター』は「いい医者とは?」と問い掛けるドラマだった。ムン・チェウォンはドラマの中にその答えを見いだしたという。「ドラマの中で私のせりふにあった。『いい人間がいい医者だと思う』と。いい女優も同じ。『いい女優とは』という問いはずっと続くと思う」
演技の道に入る前、高校時代から西洋画を描いていた。ムン・チェウォンの演技観も絵の具を塗り重ねて完成させる油絵に似ている。「ドラマのたびに自分を捨てて役に入り込むタイプではない。演技によって変身しても、体はこれまでに演じた役を覚えているから」。デビューから6年。やみくもに作品に出るのではなく、自分の「肺活量」に合わせたいと話す。「作品を視聴者の脳裏にとどまらせる時間も必要。今後も自分の呼吸に見合う速さで駆けていきたい」