「疫神を追い払え」 処容伝説にちなんだ祭り開催

 今は昔、「処容」という男がいた。夜遅く家に帰り、部屋の戸を開けてみると、妻が見知らぬ男と寝ていた。だが、処容はこれを見ても腹も立てずに歌を歌い、舞を舞ってその場を立ち去ったという。

 妻を犯した男の正体は疫神(伝染病)だった。「私はあなたさまの妻を慕って罪を犯しました。それにもかかわらず、怒ることのなかったあなたさまの美徳に感服いたしました。今後、あなたさまの顔を描いたものを見たら一切、その家には入りません」と誓った。

蔚山では毎年10月「疫神を追い払う処容」をたたえる祭りが開催される
▲ 蔚山では毎年10月「疫神を追い払う処容」をたたえる祭りが開催される

 これは韓国南東部・蔚山に伝わる「処容伝説」だ。約1200年前から、蔚山では伝染病や邪気を払うために処容の顔を門前や玄関前に掲げている。

 蔚山では毎年10月、処容にちなんだ祭りが開催されている。今年47回目を迎えた「処容文化祭」(10月3日-6日)のテーマは「処容、世界に会う」だった。

 祭りは処容巌公園での処容祭儀と処容舞から始まった。処容舞は5人が東西南北と中央を意味する衣装を着て、処容の面をかぶって舞う。2009年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界無形文化遺産に指定された。

ユネスコ世界無形文化遺産「処容舞」の様子
▲ ユネスコ世界無形文化遺産「処容舞」の様子

 処容舞の後も次々と魅力あふれる公演が繰り広げられた。今回は韓国の伝統音楽である国楽とスペインのフラメンコという、東洋と西洋の文化が一つになった公演が披露された。伝統的ながら現代的な要素も取り入れた処容舞は観客の視線をとらえて放さなかった。

 さらに、処容舞やマダン劇(広場で行われる民俗舞踊・民俗劇)などが行われた「処容マダン」は中高年層に人気だ。今回の祭りでは海外14カ国から15組、韓国からは11組がさまざまなジャンルの歌や舞を披露した。

今年の開幕公演では国楽とのフラメンコのコラボステージが披露された
▲ 今年の開幕公演では国楽とのフラメンコのコラボステージが披露された

 会場には子どものための施設も用意されていた。入り口の「風車のトンネル」の間には水が流れ、子どもたちに大人気だった。また、トンネルの近くには処容の顔をかたどったオブジェの数々が展示された。

 このほかにも普段ではできない体験ができる展示体験プログラムや世界各国の料理が味わえるフードコーナー、処容の絵を探してプレゼントをゲットするウオークラリーなども好評だった。その中でも一番目を引いたのは、処容の面が展示されたスペースだ。

祭りでは韓国伝統の面をかぶって繰り広げられる「マダン劇」も上演された
▲ 祭りでは韓国伝統の面をかぶって繰り広げられる「マダン劇」も上演された

 「処容の面」は韓国の伝統的な仮面なのだが、西欧的なテイストもあるように見える。大きくどっしりとした鼻と長い顔は「河回面」などで知られる韓国の典型的な仮面とはまた違った趣だ。使う場面に応じて形が違うため、そうした点に気を付けて見るとさらに興味深い。

 処容文化祭は処容にまつわる伝統公演のほかにも、世界各国の音楽が同時に楽しめるイベントだ。処容にあやかって邪気を払い、開運の「気」を招きたいと思ったら、毎年10月に蔚山を訪れてみてはいかがだろうか

<記事、写真、画像の無断転載を禁じます。 Copyright (c)Chosunonline.com>
関連ニュース