インタビュー:是枝裕和監督に聞く

「地面をはい回る、それが私の映画」

▲BIFFオープントークで『そして父になる』主演の福山雅治とともに質問に答える是枝裕和監督=写真左=。是枝監督は「子どもが自分の思い通りにならないことに気付いた瞬間、自分を取り巻く世界もそうだということに気付く。そして父になるのだろう」と語った。/写真提供=BIFF
▲ ▲BIFFオープントークで『そして父になる』主演の福山雅治とともに質問に答える是枝裕和監督=写真左=。是枝監督は「子どもが自分の思い通りにならないことに気付いた瞬間、自分を取り巻く世界もそうだということに気付く。そして父になるのだろう」と語った。/写真提供=BIFF

 「私は娘になかなか会ってやれない悪い父親。この映画はそんな自分への言葉」

 一流は一流を知る。アジア最大規模の映画祭「釜山国際映画祭(BIFF)」にはアジア最高の監督たちが集まってくる。今年も是枝裕和監督=日本=、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督=中国=、蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督=台湾=など、世界の映画界で注目を集めているアジアの巨匠たちが新作を手にやって来た。今も新たな試みに恐れずに挑む是枝監督(51)にインタビューした。

 是枝監督とのインタビューは時間が足りない。質問すると、監督は目をじっと閉じたまま、まゆをしかめた。しばらくそのままでいたかと思うと、2-3文というあまり長くない言葉で答える。断固とした口調で強く主張することはない。ある対象に対して安易に判断を下さない、慎重な姿勢をうかがわせる是枝監督の映画は、そのゆっくりとした答え方にそっくりだ。

 新作『そして父になる』(韓国公開12月)=下の写真=も例外ではない。病院で生まれてすぐに取り違えられたことを知らずに実の子だと信じて他人の子を育ててきた二人の父親たちには大きな違いがあった。社会的に成功している父親・良多(福山雅治)は市中心部の現代的なマンションで暮らし、息子を厳しく育ててきた。だが、実はその良多の本当の息子を育てたのは小さな雑貨店を営みながら店舗兼住宅で子どもたちと自由奔放に遊ぶ雄大(リリー・フランキー)だった。カメラはこの2家族を遠くからそっと写すだけで、その生活や子育て方法から確執が生じても、どちらか一方の肩を持つことはない。この作品により今年5月のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した是枝監督が釜山国際映画祭にやって来た。

-今回の映画をはじめとして家族、特に子どもを取り上げた作品が多い。

 「野球好きな父親と一緒に過ごした子どもが野球好きになることが多いように、私は子どものころ母とテレビのホームドラマをよく見ていたので、このように家族の物語が好きになったようだ。以前『歩いても歩いても』(2008年)という作品を撮ったとき、主人公の母親役を演じた樹木希林さんに『人に関する映画を撮り続けようと思うなら、家族を作らなければならない』と言われた。確かに母を亡くしたり、子どもができたりして以降、私の映画も変わった」

-シナリオを書きながら、自身の選択(自身がこの映画の主人公だと仮定した場合の選択)についても考えてみたのか。

 「実の子に会わずにはいられなくなると思う。それと同時に、それまで育ててきた子どもも返さないだろう。本当に高慢な考え方だが、二人とも育てたいと思うのでは」

 教育や所得の水準が自分より下の男が実の子を育てていたことを不愉快に思った良多は、より良い環境を提供するため「二人の息子」を育てようと計画を立てる。しかし、実の子を家に連れてきたとき、良多は自分がバカにしていた男の方が父親として優れているかもしれないと気付く。良多の息子は是枝監督の娘と同い年の6歳という設定だ。

-監督はどんな父親なのか。

 「良多は実の子を育てた男から『子どもと多くの時間を過ごすべきだ』と忠告される。実はそれは私の弱点だ。私も仕事で時間がなくて、6歳の娘の寝姿ばかり見ている悪い父親。いつの間にか母親とばかり仲が良くなった娘を見て、父親としてどのように存在すべきか不安になった。だが、良多が『(父親として)自分にしかできないことがある』と言ったように、私にしかできないことがあるはずだ」

-監督にとって映画とは?

 「私にとって映画とは、高い所から見下ろす俯瞰(ふかん)ではなく、地面をはい回ること。そうやってはい回りながら見える小さな物で映画を作りたい。死や喪失を題材にした作品が多いが、『人を信じたらだめだ』とか『この世は生きるに値しない』とか言おうとしているのではない」

-今後撮りたい作品は?

 「私はもう50歳を過ぎた。いつかは日本の歴史のうち第二次世界大戦を題材にした大叙事詩を作りたい。韓国・中国・香港・台湾が参加する大作への欲もある。あの時代を描いた映画はもう出てこないので、次の世代に是非見せてたい」

是枝裕和監督=デビュー作『幻の光』(1995年)でベネチア国際映画祭の金オゼッラ賞を受賞。3作目の『DISTANCE(ディスタンス)』(2001年)でカンヌ国際映画祭コンペティション部門に招待された。4作目の『誰も知らない』(04年)では主演した柳楽優弥がカンヌ国際映画祭の最優秀主演男優賞を受賞している。ドキュメンタリー番組の演出家出身の是枝監督は、人間の関係とコミュニケーションをドライだが冷たくはない視線で描き、不在と死により生を慈しみ、いたわる。その作品は観客をギュッと抱きしめるというよりも、肩にそっと手を添えるという印象に近い。

インタビュー:是枝裕和監督に聞く

釜山=卞熙媛(ピョン・ヒウォン)記者
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