貪欲(どんよく)な韓国の泥棒たちのボス、ポパイ(『10人の泥棒たち』)。警察と犯罪組織とのはざまで苦悩する潜伏警察官イ・ジャソン(『新世界』)。そして今回挑んだ役は、王になろうと野心を抱く首陽大君(のちの朝鮮第7代国王・世祖)…。今月11日に公開された映画『観相』(ハン・ジェリム監督)に出演したイ・ジョンジェ(40)が最近演じた役の数々だ。
「『観相』を撮影した年、首陽大君を描いたドラマだけでも2本ありました。だから、僕が演じた首陽大君は少し違うものにしたいと思っていました。後に王となる人物なのに顔に傷があって、狩りを楽しむ一面も持つなど、『新しい』とお感じになるでしょう。それに若いし。よく『首陽大君について新たな解釈を加えた』と言われますが、僕はそうは思いません。ある一部分だけを見ているのでしょう。威厳と気品を持ちながらも荒々しさが出るよう考えました」
先日、ソウル市鍾路区のカフェでインタビューに応じたイ・ジョンジェの言葉だ。
映画『観相』は顔を見ただけでその人の将来を見抜くことができる天才観相家の物語だ。イ・ジョンジェは「没落した両班の子孫が一族の再興を誓って漢陽(現在のソウル)にやって来て、1453年の『癸酉靖難』(首陽大君による政権奪取事件)という歴史の大きなうねりに巻き込まれ、悲劇に遭う物語」と説明した。そして「自分は脇役」だと言う。観客は上映中、主人公の観相家を演じるソン・ガンホに終始注目しているものの、妙に引きつけられるのは首陽大君役のイ・ジョンジェの方だった。
海外の映画情報専門サイト「twitch film」は「イ・ジョンジェは最高の演技キャリアを見せてくれた。重厚かつ脅威を感じさせる声で、誰よりも悪意に満ちあふれた危険な人物を見事に表現した。これまで演じてきた役で最高」と絶賛した。
これについて本人は「記事を書いてくださった方が、僕が出演した映画を全てご覧になったのかは分かりません。僕が思っている一番の役は映画『若い男』のイ・ハンです」と語った。『若い男』はペ・チャンホ監督による1994年作品で、シン・ウンギョン、イ・ウンギョンらも出演している。イ・ジョンジェが演じたのは主人公の三流モデル、イ・ハン。数々の映画祭で新人男優賞をさらった思い出の作品だ。
「今回の首陽大君もそうですが、ほかの役は『もう一度やれ』と言われればやりますけど、『若い男』のイ・ハンはできません。あの年齢でなければできないから。だから余計に愛着があるのでしょう」