【ソウル聯合ニュース】ホン・サンス監督の映画は、何の変哲もない酒やお茶を飲むシーンなど、日常の平凡な瞬間をとらえる。つまらない繰り返しにすぎない日常はある瞬間、繰り返しを重ねながら変奏を始める。女優のチョン・ユミはここ数年間、その繰り返しと変奏の中心に立っていた。
これまでホン監督の作品には、短編映画「深い山奥」(2009年)と「LIST」(2011年)、長編映画「よく知りもしないくせに」(2008年)、「教授とわたし、そして映画」(2010年)、「3人のアンヌ」(2011年)、新作「ウリソンヒ(わがソンヒ)」(原題、2013年)の6作品に出演した。ホン監督作品の「ミューズ(ギリシャ神話で、文芸、音楽などをつかさどる女神)」と呼ばれる理由でもある。
だが、当の本人は「そんなこと言わないでください。これからもホン監督の作品に出演したいのですが、あまり頻繁に出演すると観客は飽きてしまうかもしれないので……」と、ミューズと呼ばれることに負担を感じているらしい。
ホン監督の最新作で、第66回ロカルノ国際映画祭で監督賞に輝いた「ウリソンヒ」では、主人公ソンヒを演じた。映画のロケが行われたソウルの建国大学でこのほどインタビューに応じ、撮影の過程を振り返った。
ホン監督はあらかじめ台本を配らない。映画の全体的な構想はあるが、せりふは撮影現場で直接書く。その日その日の俳優の状態、雰囲気、天気など細かい部分を作品にリアルに反映させることができるが、俳優にとっては苦痛だ。
「喜びですか? そんなものはありません。台本が午前中に渡されるのでせりふを覚えるのに必死です。食事のときも台本は手放せませんし、共演者とはおしゃべりする時間もありません。そうこうしているうちにせりふは覚えてしまいます。大変ですけど、そうやって映画を撮る時間が好きなんです。やりがいもありますし……」
同映画には俳優のイ・ソンギュン、キム・サンジュン、チョン・ジェヨンも出演する。イ・ソンギュンとの共演は「深い山奥」「教授とわたし、そして映画」に続いて3作品目。キム・サンジュン、チョン・ジェヨンとは今回が初共演となった。
映画には酒を飲むシーンが多く登場する。ムンス(イ・ソンギュン)とソンヒ、ムンスとジェハク(チョン・ジェヨン)、ジェハクとソンヒ、ジェハクと崔教授(キム・サンジュン)、崔教授とソンヒが酒を飲みながら会話するシーンが88分の上映時間のうち25分にも及ぶ。どのシーンもロングテイクで撮られた。
「今回は撮影中に少しお酒を飲みました。映画のシーンにふさわしいと思ったので。お酒に酔ってせりふを間違えたりしないかという心配はしませんでした。監督や先輩らを信じて、台本に書かれた通りに演じました。全てをかけて、体当たりで演技しました(笑い)」
彼女は自らを「運がいい女優」だと話す。「メロー映画のポン・ジュノ」と呼ばれるキム・テヨン監督の「家族の誕生」(2006年)に出演したほか、チョン・ソンイル監督の「カフェヌワール」(2009年)では20分近くに上る独白のシーンをこなす実力を発揮した。
「これまでを振り返ってみると、運が良かったと言えます。素晴らしい作品に出演し、素晴らしい人々に出会いました。女優としての誇りも感じます」
2003年に短編映画「ポラロイド作動法」でデビューしたチョン・ユミはこれまでに10作品を超える映画に出演した。中でもチョン・ジウ監督の「親知らず」(2005年)に対する愛着が一番大きいという。
この作品があったからこそ今の自分が存在すると振り返る。チョン監督や制作会社代表との出会い、女優キム・ジョンウンとの共演などを通じて、演技だけでなく自立心など多くを学んだそうだ。
演技派女優と評価されているチョン・ユミは、演技のためにも、インタビューにはむやみに応じない。自身が演じた役や出演作品に影響を与える可能性を考慮し、バラエティー番組への出演も控えるという。
「女優として良い態度を取り、正しい考えを持ちたいです。役者を目指す人が多いですが、私は選ばれた身ですから、責任を持って女優業を全うしたいです」