ソ・ジソブ(34)が会社員になった。それも競争が激しい営業マン。役職は課長だ。普通の会社員のように、実績を気にし、昇進を心配する。もちろん、平凡な会社員とは違う。彼にとっての実績は「殺人」だ。
ソ・ジソブの新作映画『会社員』(イム・サンユン監督)は平凡な会社、会社員を装った殺し屋たちの物語。痛快なアクションとともに、会社員の悲哀を描いた。ソ・ジソブは後者を強調した。
「会社員の悲哀を表現したかった」。会社勤めをしたことのないソ・ジソブが会社員を語るということが意外だった。ソ・ジソブは「職業が俳優というだけで、芸能人の生活も会社員とはさほど違わない」と強調した。
「俳優にとっての仕事は演技じゃないですか。仕事がうまくいけば昇進し、失敗すれば非難されるという点では俳優も同じ。僕もこの仕事を始めたとき、よく見せようと頑張っていた思い出があります。劇中、実力もないのにいい待遇を受けようとする「天下り部長」のジョンテ(クァク・ドウォン)のような人とも会いましたし」
ソ・ジソブは、映画で会社の代表が「わたしが君を気に入っていることは分かっているだろ?」と褒めると、無表情で「愛しています」と90度に頭を下げるシーンが共感を呼ぶ。「そのシーンが面白い」と言うと、待っていたかのように「現場で出したアイデアだった」と誇らしげに話した。
ソ・ジソブが演じたチ・ヒョンドは、10年間殺し屋として毎日同じことを繰り返す日常と、過度な業務にストレスを受ける人物。仕事に疑念を抱き、会社を辞めようとするが、会社はヒョンドをそう簡単には手放してはくれない。
ヒョンドの悩みは、デビュー17年目のソ・ジソブのそれとも似ている。ソ・ジソブは「僕もいつも胸の中に辞表を抱えています。今の仕事を一生続けると思ったら、誰でも息が詰まるのではないか」と話した。
「俳優になったばかりのときは、自分の中にあったものが多かったんです。ところが、17年間充電をせず、使ってばかりいたので、最近は少し悩みとなっています。俳優にとっては経験が重要で、演技に生かしたら、また経験で満たさなければならない。それが簡単ではないということ。苦痛です」
ソ・ジソブの夢は「会社員」だった。漠然と平凡な会社員になるだろうと思っていた。スポーツをやめたあと(11年間水泳選手として活動)は、ホテルマンを夢見た。その夢は現在進行中。俳優は夢にも思っていなかった生き方だ。お金を稼ぐため、演技を始めた。やってみたら面白くなり、好きになったので、うまくなりたいと思うようになった。
だからといって、完全にこの生活に適応したわけでもない。ソ・ジソブはネクタイをギュッと結んだような息苦しさを訴えた。「内向的で口数が少なく、人間関係が狭い」と自分を評したソ・ジソブは「僕はダブダブの服を着て、地べたに座っているのがラクな人間なのに、顔が知られる芸能人として着飾り、縛られて生きようとするので、もどかしくぎこちないときが多い」と打ち明けた。
「時間があるときは米国に行きます。朝起きたら、洗顔もせずに外に出てコーヒーを飲みますが、そういう自由がすごくいいです。それでも、まだ俳優として生きているのは、演技の難しさより演技する楽しさのほうが大きいからでしょう」
そのほかにもさまざまな話が飛び出した。「食べたらすぐに太るタイプで、ダイエットに運動は必須」という話から「40歳までには結婚したいが、相手と出会うチャンスがないので心配」という話まで。答えは長くなくても、質問を避けることはなかった。背中、肩、腕に彫られたタトゥーは周知の事実だが、まだ知らない「人間ソ・ジソブ」についても話してくれる。
「背中に彫ったタトゥーは“生まれ変わっても、変わらない”という意味。ダイヤモンドの中に51K(ソ・ジソブが設立した個人事務所)、建物の絵を刻んだ肩のタトゥーは夢を忘れないように、と入れました。最近、腕に入れたタトゥーは“人生を楽しみながら、愛しながら生きよう”という意味。もちろん演技をするとき、不便さはありますが、それも受け入れて決めたこと。自分の人生で最大の逸脱です」