イ・ビョンホン(42)は少年と男の境界線に立っている俳優だ。体と頭の中はすっかり大人の男だが、その瞳だけはいつも子どものように揺れている。映画『悪魔を見た』(2010年)のように強く冷たい男の役でも、『我が心のオルガン』(1999年)のように恋に夢中の純粋な青年の役でも、いつもそうだった。そんなイ・ビョンホンがチュ・チャンミン監督の『光海(クァンヘ)、王になった男』(19日公開)で鋭く狂気に満ちた朝鮮の王「光海」と、純朴で正義感あふれる大道芸人「ハソン」の1人2役を演じることになったのは、ある意味自然なことなのかもしれない。
ソウル市竜山区のカフェで先日、イ・ビョンホンにインタビューした。今月中にブルース・ウィリス、ヘレン・ミレンらが出演する『RED 2』撮影のため韓国を離れる。イ・ビョンホンは「映画館に行ったら、自分が出ている映画とそれを見るお客さんを見るのがとても楽しみだったが、今回はそれができなくて残念。以前は自分が出ている映画を30回くらい見たこともある」と語った。
-わい談をする大道芸人の役というのは意外だ。特に「梅花器(朝鮮王朝時代の王の便器)」にしゃがむシーンは「イ・ビョンホン」だけに余計に面白い。
「意外だと思われることが意外です。俳優以外に歌手や司会などのほかの活動をしていれば、いろいろな面をお見せできますが、僕はそれを演技だけできちんとお見せしなければならない。演技をするときは、特定の姿だけを見せるようなことはしたくありません」
-この作品を選んだ理由は?
「小説の読者の気持ちになって台本を読みます。自分が演じる役を気にしながら読んでいたらきちんと読めません。『光海』は面白かった。『自分が一国のリーダーになったらどうなるだろう』とか『今、自分が置かれている環境は嫌だ。この国のリーダーになって変えたい』と誰しも一度は思ったことがあるのでは? 映画に自分を当てはめて痛快感や満足感を得るようになります。そして『梅花器』のシーン、あれがあるからこの映画を選んだのもあります」
-映画『G.I.ジョー』でハリウッド映画デビューを果たしたが。
「最初は台本を3ページ読むのに1時間かかりました。辞書を引きながら読んでも、意味が分からないせりふや部分が多かったです。そのときは原作が漫画だということを知らなかったため『こんな漫画みたいなストーリーで、覆面をかぶって二刀流で飛び回る役なんて』と考え、断ろうと思っていました」
-それでも演じたのはなぜ? ハリウッドでずっとアクションの演技をしていたが…。
「ハリウッドで知名度が全然ないのに『この役をやりたい』と言ったら、それは正気の沙汰ではありません。しかも僕は全くの新人。今は自分で作品を選べるほどの自力が付くまで、知名度を高めるための戦略的な選択をすべきです」