平凡な人々が悔しさや憤りを感じる目に遭ったとき、警察署・検察・裁判所に頼らず自ら立ち上がり悪党を捕まえ、復讐する。公権力は助けになるどころか、時には邪魔をすることすらある。
最近のテレビや映画にはこうした「私的な復讐」をストーリーとする作品が多い。今年後半に公開・制作が予定されている韓国映画5-6本の中心となる筋はすべて「私的な復讐」だ。このほど終了したドラマ『追跡者THE CHASER』や『ユリョン<幽霊>』も同様だった。パク・チャヌク監督の『復讐3部作』(『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』『親切なクムジャさん』の3作品)や『アジョシ』のような個人による復讐を描いた映画は毎年1-2本あったが、ほぼ同時期にこれほど多くの「個人的な仕返し」をテーマにした作品が登場するのは異例だ、と関係者は話す。だが、需要があるから供給されるわけで、『追跡者』も『ユリョン』も20%前後という高視聴率を挙げヒットした。なぜ今、韓国映画・ドラマ界は「私的な復讐」をテーマにしているのだろうか。
■あふれる「私的復讐」映画・ドラマ
22日公開の映画『隣の人』は少女連続殺人犯を近所の人々が捕まえるというストーリーだ。また、近日公開の『私が殺人犯だ』は公訴時効を過ぎた連続殺人犯に被害者遺族と担当刑事が報復するというもの。現在撮影中の『26年』は5・18光州民主化運動(1980年5月18日に光州で起こった民主化要求、光州事件)の「彼」を遺族が暗殺しようとする。ドラマ『追跡者』は権力を利用し自身の悪行を隠そうとする大統領選有力候補を警察官が追い詰め、復讐するという物語だし、『ユリョン』は友人を殺した財閥企業会長に対しハッキングという違法な手段で個人的に報復する話だ。
これから制作に入る映画のうち、ウェブトゥーン(インターネット上に掲載される漫画・アニメ)を映画化した『ザ・ファイブ』は平凡な主婦が連続殺人犯に家族を奪われ、自ら犯人を捕まえようと立ち上がる話だ。娘を失った父親が殺人犯の息子に復讐するというベストセラー『7年の夜』もまもなく映画化される。
『ザ・ファイブ』の原作者で映画監督でもあるチョン・ヨンシク氏は「何よりも公権力に対する信頼が大幅に弱くなっていると思う。私も『警察や裁判所にだけすべてを任せていたら、社会の底辺の人々のわだかまりは解消されない』という思いから作品を描き始めた」と話す。東国大学映画学科のチョン・ジェヒョン教授は「凶悪犯罪や不正事件が相次いでいるのに捜査や処罰は十分でないため、一般の人々は私的復讐を夢見るようになり、映画・ドラマがそうした世相を現しているのだろう」との見方を示した。
■「政治的・社会的不条理」が原因
ある映画制作会社の代表は「政権の汚職事件が相次いで明るみに出て、経済も厳しい現実」を指摘した。「大きな不正が続けば権力に批判的な映画に人は共感する。しかし、権力の犠牲になった人々を直接描くより、私的復讐という枠組みでサスペンスや法廷物の形を取る方が作品的な面白味を膨らませ、商業的にも効果があるため、最近は個人の復讐を描く作品が多数登場している」ということだ。映画評論家のカン・ユジョン氏は「数年前に公開されたパク・チャヌク監督の『復讐3部作』やイ・ジョンボム監督の『アジョシ』も私的復讐を描いていたが、そこに社会的な背景はなかった。だが、今公開される私的復讐を描くコンテンツは、昨年の『トガニ幼き瞳の告発』『折れた矢』のように社会的問題の延長線上になければならない」と語った。
ドラマ評論家でもあるユン・ソクチン忠南大学国文科教授は「2009年のドラマ『ザ・スリングショット~男の物語』は私的復讐という形を取って新都市開発をめぐる企業を赤裸々に描いたが、注目されなかった。『追跡者』や『ユリョン』もあのころ放送されていたら話題にならなかったかもしれない。経済難など現在の政治・経済の状況に対する一般の人々の不満や喪失感がドラマ・映画などのコンテンツに反映され、反響を呼んでいるのだろう」と話している。