全羅北道は最も韓国らしい風情が息づき、昔ながらの見事な景観を守り続けてきた。四季折々の「祭り」、なだらかな山へとつながる「道」、真心こもった「おふくろの味」、最も韓国らしい伝統文化に出会える地域だ。
今年を「訪問の年」に掲げている全羅北道は、リーズナブルな費用で道内の文化的・歴史的観光スポットを巡ることができる「全羅北道めぐり」を実施している。ソウル発の観光バスで全羅北道の各地を回る「五感で楽しむ旅」に出掛けてみることにした。
■中国も認めた「一級品の韓紙」に出会える全州韓紙博物館
ソウルを出発した観光バスが最初に到着したのは「全州韓紙博物館」。韓紙とは韓国の伝統製法で作られた紙だ。1997年にオープンしたこの博物館では、韓紙の歴史と将来、制作・活用方法など、韓紙の全てが体験できる。
ここでは、韓紙で作られた工芸品の三合箱(3色の幾何学模様の韓紙をはり付けた小物入れ)、書類箱、裁縫箱、つぼなどの所蔵品が目を引く。紙を使って作られた工芸品だが、1000年たった今でもその美しさに変わりはない。
韓紙は使うまでに100回手を加えなければいけないということから「百紙」とも言われる。それだけさまざまな工程を経て真心こめて作られるということだ。コウゾという木を煮て皮をはがし、くずなどを取り除いた後、原料をよくたたいてのりと混ぜ、枠に流し込んで紙をすき、乾燥させるという工程で作られる。ここでは、紙すき体験ができる。
■全州ビビンバ、そのおいしさの秘密
韓紙博物館の見学を終えるころ、ちょうどランチタイムになる。韓流グルメの一つに必ず名前が挙がる「全州ビビンバ」が私たちを待っている。ご飯の上に盛られた色とりどりのナムルや具材を見ると、さらに食欲がそそられる。
全州ビビンバは視覚も味覚も刺激する。まず、5色のナムルが目を楽しませてくれる。5色とは青(=緑)・白・赤・黒・黄色で、宇宙を表す色を意味する。東の方向に青、西に白、南に赤、北に黒、中央に黄色の具材を載せるのが特徴だ。
全州ビビンバを盛り付ける真ちゅうの器にもおいしさの秘密が隠されている。真ちゅうは食べている間、ゴマ油の香りやナムルの鮮度を保ち、保温効果があるため味のよさが損なわれない。
■韓国最大規模の韓屋村で全州の「風情」と「味」を極める
さて、おなかがいっぱいになったところで、観光スポットめぐりの再開だ。バスは全州の風情あふれる「全州韓屋村」へと向かった。村内を見学する前に、パンソリ(唱劇)を楽しむ。全州はパンソリでも有名だ。
韓屋村は「殿洞聖堂」→「慶基殿」→「崔明姫(チェ・ミョンヒ)文学館」→「韓方(韓国漢方)文化センター」の順に回るのがおすすめ。殿洞聖堂は韓国で最も美しい大聖堂の一つとして挙げられる。ロマネスク様式の壮大さが感じられ、全羅道地域の西洋近代建築物で最も古い建物だ。そして、映画『約束』(1998年)で主人公たちが悲しい結婚式を挙げるシーンが撮影されたスポットとしても有名だ。
慶基殿は韓屋村のシンボルで、ここを代表する文化財。朝鮮王朝初代国王・太祖(李成桂〈イ・ソンゲ〉、1335年-1408年)の遺影を祭った場所で、同王朝の故郷ともいえる。ソウル・漢江より南にある唯一の宮殿式建築物という点でも貴重だ。
■無病息災を祈りながら歩く韓国の美しい道「高敞邑城」
翌朝、観光バスは「高敞邑城」へと向かった。ここは「韓国の美しい道」に選ばれるほど美しい城郭とその道が自慢だ。朝鮮王朝第6代国王・端宗の即位元年(1543年)に外部勢力の侵略に備え建てられた城で、春にはツツジの花に囲まれ、より一層美しさを増す。山を取り囲むように城壁が築かれているため保存状態がよく、韓国で最も完璧に近い状態で残されていることでも知られる。
入り口はU字型に作られているため、城門に向かって進撃してくる敵を攻撃しやすいだけでなく、一度に多くの兵士が入り口に押し寄せるのを防ぐ効果もある。城門には高さがそれぞれ異なる石柱が使われている。こうした所にも、いにしえの人々の芸術的なセンスの高さをうかがい知ることができる。
■はるか昔の青銅器時代へタイムスリップ…「高敞支石墓博物館」
次に観光バスが向かった先は「支石墓遺跡」だ。ここは国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界文化遺産に指定されており、仁川市の江華島同様に有名な支石墓(ドルメン)の分布地域。世界の支石墓の70%以上が韓国に存在し、学術的にも意義深い場所だ。
ここの支石墓は梅山のふもとに沿って所々に分布しており、その数は約500にも上る。見学するには、徒歩または簡易列車を利用する人が多い。そのミステリアスな歴史や形について学ぶことができる。
■バスに乗って巡る全羅北道の美しい風景
全羅北道高敞郡で最後に訪れたのは「禅雲寺」だ。道立公園の兜率山(海抜336メートル)のふもとにあり、周辺の景色はもちろん、ツバキの花が美しいことでも有名だ。禅雲寺に向かう途中に見えてくるのが兜率川。涼しげに流れる小川に木の葉が浮かぶ様子はまるで風景画のようだ。
禅雲寺を出発したバスは辺山半島を経て、「新万金防潮堤」へ。辺山半島は国立公園の中でも特に山と海が美しいことで知られる。
全長33キロメートルに達する防潮堤は別名「海の上の万里の長城」と呼ばれている。防潮堤に上がると、青い空と海が織りなす壮大な景色が目の前に広がる。
この防潮堤で全羅北道めぐりの旅は締めくくられる。1泊2日の短い旅だが、全州・高敞・扶安・群山など全羅北道の観光スポットをくまなく見学できるおすすめコースになっている。