仁川市中区には「初」や「元祖」が多い。韓国初の西洋式公園「自由公園」やチャジャン麺発祥の地「チャイナタウン」、中区庁近くの「開港場通り」などだ。このように新たな文化が受け入れられた最大の理由は、港湾都市という特殊性があったからだろう。
異国の文化は建築だけでなく、地元の料理にも影響を及ぼした。開港場通り近くの新浦市場には、甘辛ダレを絡めた鶏から揚げ「タッカンジョン」をはじめ、色も形もさまざまな「ギョーザ」、「チョル麺」などがある。こうした料理は、かつてこの地に暮らしていた外国人の好みに合わせて作られたものだ。
■最高の味が自慢、新浦タッカンジョン
ソウルから1時間。昼食時を過ぎたころ新浦市場に到着した。空腹を抑えながら市場に入った途端、おいしそうなにおいが鼻先をくすぐる。何を食べようかと悩むのもつかの間。目の前には地元の名物タッカンジョンが「どうだ」とばかりに並んでいた。
食事時でないにもかかわらず、店内は客でいっぱいだった。店の片隅でタッカンジョンを食べていた女性ユ・スンヒさん(46)は「学生のころ、小腹がすいたときにタッカンジョンをよく食べた。値段も安いし、この甘辛ダレが絶品」と語った。
皿に山盛りのタッカンジョンが出てきた。甘辛ダレがトロッとしてツヤツヤ。見かけは鶏1羽分をから揚げにしてソースを絡めた「ヤンニョムチキン」とよく似ている。だが、タッカンジョンを一口食べるとその違いがすぐに分かる。
普通のヤンニョムチキンとは食感からして違った。サクサクと香ばしい衣とジューシーな肉が見事にピッタリの相性で、歯ざわりと柔らかさが同時に感じられる。そして、ほどよく甘辛いタレが普通のヤンニョムチキンとは違う。青唐辛子が入っているからかピリっとした辛さもある。
また、最大の違いは、ヤンニョムチキンは冷めると本来のおいしさが損なわれるが、タッカンジョンは冷めるほどに味がよく染み込み、さらに深い味わいが感じられるという。昔、中国の船乗りが冷めた鶏のから揚げでもおいしく食べられるように編み出した調理法だそうだ。
この日食べた「チャンヌリ・タッカンジョン」(旧・新浦味の店タッカンジョン)のキム・ジョンスン代表は「昔からずっと味が変わらないから新浦市場の名物になったのでしょう。30年過ぎても同じ味だから、お客さんが来てくださるのでは」と言って笑った。
■コシの強いチョル麺、新浦市場が元祖
一般的な麺よりも太く、ゴムのようにコシのあるチョル麺は、大衆食堂では欠かせない定番メニューだ。新浦市場では元祖チョル麺が味わえる。40年過ぎた今も、安くて甘辛くて酸っぱいタレでさっぱりとした味わいが人気だ。
チョル麺はもともと甘辛くて酸っぱいタレで食べる「ピビン冷麺」の仲間のようなもので、冷麺工場従業員のミスにより偶然生まれたメニューだという。工場で冷麺より太い麺ができてしまい、捨てるのがもったいないと、店に麺を無料で提供したところ、店主がコチュジャン(トウガラシみそ)で作ったタレであえて販売したのがきっかけで、チョル麺が誕生した。
新浦市場内にある「新浦・うちのギョーザ」という店でチョル麺を食べることにした。注文すると、大きな丼ぶりにコシの強いめん、その上にコチュジャンベースのタレ、ゆで卵、色とりどりの野菜が添えられている。
麺はコシはもちろん、弾力が感じられる。食べているうちに、最初は感じなかった辛さが口の中いっぱいに広がり、時間がたつにつれ舌がヒリヒリしてくる。
このほかにも新浦市場では、色も形もさまざまなギョーザ、40年の伝統を誇るコンガルパン(中が空洞になっている中国発祥の菓子)、新浦スンデ(豚の血などが入った腸詰め)が食べられる。握り拳よりも大きな特大ギョーザは色によって味も違う。黄色はカボチャ、緑はヨモギ、ピンクはチェリー味で、それぞれ好みの味が選べる。コンガルパンは甘くてサクサクとした食感が楽しめる。仁川に定住した中国人の食生活が地元の料理にも影響を与えたことが分かる。