「よりによってなぜ、ずる賢いヤクザである主人公の名前が愛国者として知られる崔益鉉(チェ・イクヒョン)先生と同じなのですか」
映画『犯罪との戦争』(ユン・ジョンビン監督、2日公開)の制作会社に先月末、抗日・独立運動家とその遺族の団体「光復会」から電話が来た。「『映画で否定的に描かれている主人公の名前が、朝鮮末期の文民政治家で乙巳条約(日本では第2次日韓協約と呼ばれる、事実上韓国が日本の保護国となった1905年の協約)に抵抗した崔益鉉先生と同じ』という抗議が光復会に相次いでおり、経緯を知りたい」という内容だった。映画で俳優チェ・ミンシクが演じている「チェ・イクヒョン」は不正をしていた税関職員で、暴力団と結託する典型的な日和見主義者だ。
この映画を配給しているショーボックス・メディア・プレックスの関係者は「(先祖の出身地が同じ一族の団体である)慶州崔氏忠烈公派の宗親会も制作会社に抗議してきた」と話す。映画で「チェ・イクヒョン」が慶州崔氏忠烈公派であることを前面に押し出し、同族である検事や高級公務員に対しロビー活動を行い、罪を犯すというシーンを問題視したのだ。事実、政治家の崔益鉉も慶州崔氏だ。
『犯罪との戦争』制作会社関係者は「俳優チェ・ミンシクさんのお父さんの名前にも、ユン・ジョンビン監督のお父さんの名前にも『イク』という字が入っている。それでユン監督が思いついて、主人公の名前に『イク』の字を入れたところ、『チェ・イクヒョン』になっただけのこと。崔益鉉先生とは何の関係もない」と話す。また、「慶州崔氏忠烈公派の話を出したのも、特に意図はない。これについて法律上のアドバイスを受けたが、問題がないと言われた」と言っている。
ある制作関係者は「こうした抗議があるのも、映画がヒットしているからだろう」と語る。最近ではナ・ホンジン監督の映画『チェイサー』(2008年)がヒットした時、同作品で俳優ハ・ジョンウが演じた連続殺人犯チ・ヨンミンと同じ、あるいはよく似た名前の人々が制作会社に「あまり多くない名字なのに、悪役に付けるとは不愉快だ」と抗議した例がある。