写真撮影が終わると、女優オム・ジョンファ(42)は金銀のアクセサリーが付いた華やかなジャケットを脱ぎ、毛糸のカーディガンを羽織った。撮影中の鋭い目も、撮影後は穏やかになった。近寄りがたいカリスマ性を放つ「ステージの女王」から、夜通し酒を傾けながら悩みを聞いてくれそうな「隣りのお姉さん」になるのに何秒もかからない。「男性よりもむしろ女性の方に人気があるのでは」と言うと、オム・ジョンファは「悲しいですね。昔は男性の方に人気があったのに」と笑った。
10日、ソウル市鍾路区のカフェでオム・ジョンファに会った。イ・ソクフン監督の映画『ダンシング・クイーン』では大学時代に「新村のマドンナ」と呼ばれたほどダンスがうまい主婦「オム・ジョンファ」役を演じている。歌手になりたいと思っていたが、小学校の同級生「ファン・ジョンミン」(ファン・ジョンミン)と結婚、稼ぎの悪い夫を抱えエアロビクスのインストラクターをしているたくましい主婦という設定だ。偶然、小さいころの夢をかなえるチャンスに恵まれ、グループ「ダンシング・クイーンズ」でデビューする。「映画の中のオム・ジョンファのように、チャンスをつかめないまま結婚してしまったら、後悔しながら暮らしていくと思います。胸に何かが重くのし掛かっているような、そんな感じを抱えたまま」。
実際に「ダンシング・クイーン」であるオム・ジョンファが、『ダンシング・クイーン』という映画に出演し、歌い、踊る役を演じるのは、女優として楽な選択のように思える。だが、本人は「歌手としての活動が長かったので、そのイメージが強すぎるのでは? いかにも『オム・ジョンファ』という感じがしすぎるのでは? と心配しました」と言った。「ですが、実際に演じてみたら考えすぎでした。主婦として暮らしながら歌手デビューした(映画の中の)オム・ジョンファと、歌手で女優のオム・ジョンファは完全に別の人間でした。映画の中のデビューステージは文字通り演技ですから」。
オム・ジョンファは1993年に歌手兼女優としてデビューした。今年で20年目を迎える。40代半ばに差し掛かろうとしているが、今もステージでアイドル歌手たちと並んで歌い、踊り、スクリーンではヒロイン役を逃したことがない。オム・ジョンファは「ロールモデル(手本・目標となる人)がいなかったので、自分がロールモデルになろうと思いました。インタビューで『オム・ジョンファのようになりたい』と話す後輩もいますので、ある程度は成功したのかもしれません」と言った。「年齢を憂える暇があったら、もっと魅力的になる方法を考えれた方がいい」とも。「『年を取ったから』と思うこともありますが、『ああ、私は何を考えているんだろう』と気合いを入れ直します。『常にステキでいなければ』って。ステキというのは自信と情熱があるということです。それがなければ他人の顔色をうかがいながら生きていくことになるでしょう」。
20年にわたり歌手・女優として魅力的な生き方をするのは大変ではないのだろうか。だが、「演技がうまくできない時は、頭をたたき割ったり、穴を掘って入りたいような気分になりますが、そうした苦痛や恐怖すら楽しいと感じます。楽しめなくなったらやめるべきです」と話す。「デビュー時からインタビューを受けるたび『どうして、歌手と女優の両方をしようとするのか』と聞かれてきました。両方ともできるのに、どうして一方だけしなければならないのでしょうか?」。
スクリーンでは「堂々」どころでは収まらない、かなり毒気の強い役を主に演じてきた。「実はおどおどすることも多く、撮影が終わると後悔したり心配したりもよくしますし、コンプレックスもたくさんあります」。「どんなコンプレックス?」と聞くと、小さい声で「それは絶対言いません。言った途端にみんなそれしか見なくなりますから」と答えた。
オム・ジョンファは昨年5月に甲状腺がんの手術を受けたが、今ではすっかり良くなった。「手術さえすれば全く問題のない病気なので大丈夫。病名が病名だけに手術直前にちょっと不安を感じましたが、それだけでした」。病気を経験して心に誓ったことがあるという。「しっかり生きていこうということです。しっかり生きるというのは、ほかの人にプラスの影響を与え、手助けするということです。そして、私に与えられた才能と影響力を有意義に使うことです」。