「観客動員力を持つトップクラスの俳優に支払うべき正当な対価。非難されることではない」
「劣悪な韓国映画の制作環境や現場スタッフの処遇を無視した利己的な出演料収奪だ」
韓国でトップクラスの映画俳優に支払われる出演料がこの1年間に20‐30%も急増したことをめぐり、映画界の周辺で論争が巻き起こっている。
先月公開された韓国映画の主演男優Aさんは出演料として6億5000万ウォン(約4500万円)を受け取った。Aさんの昨年のギャラは約5億ウォン(約3500万円)だったため、1年で20%アップしたというわけだ。業界では、この映画を制作するのに30億ウォン(約2億1000万円)かかったのに対し「総制作費の20%を男優1人が出演料として受け取るのは問題だ」という声が上がっている。この作品は映画評論家の間で高く評価され、興行的にもヒットしたため「彼でなければこの役をこなせる俳優はいない。高額のギャラはそれにふさわしい対価だ」という擁護論も出ており、論争が収まる気配はない。
Aさんのケースのように、超トップクラスの俳優たちの出演料が天井知らずに上昇を続けている。ある中堅映画制作会社の代表は「2010年ごろまでギャラが5億ウォンだった俳優でも、最近は6億ウォン(約4200万円)以上受け取っている」と話す。「8という数字(8億ウォン=約5600万円)が書かれた出演契約書にサインしたことがある」という制作会社代表もいる。こうした流れを受け、Aクラスのスターや名脇役として知られる俳優たちの出演料もアップしている。ある映画投資・配給会社の関係者は「2億ウォン(約1400万円)弱の仕事でも引き受けていた俳優たちが、今ではギャラがプラス5000万ウォン(約350万円)くらいになった」と話す。また、ある制作会社では「テレビドラマ1本か2本で人気が出た新人まで億単位の出演料を要求するのが実情」と訴えた。最近ドラマでブレークした新人俳優Cさんは3億5000万ウォン(約2400万円)、大手芸能プロダクションに所属するアイドルグループのメンバーは3億ウォン(約2100万円)を要求してきたという。
映画界関係者は「高額なギャラ自体が問題というよりも、限られた映画制作費の中で出演料の割合が高くなると、高度な技術や装備といった映画制作費の別の部分が削られ、映画の質が低下するといった状況を余儀なくされることが問題」と語った。映画投資会社の代表は「高額なギャラで直接打撃を受けるのは制作費20‐30億ウォン(約1億4000‐2億1000万円)程度の中小規模映画。俳優1人の出演料が制作費の20%以上を占めるのは正常な構造でない」と説明する。韓国映画制作者協会の幹部は「2005年以降、韓国映画1本当たりの制作コストは10‐20%減った。その一方で俳優の出演料は逆に増えているため、スタッフの人件費が削られるなど、映画の撮影環境は悪化せざるを得ない」とつらい現状を訴えた。映画産業労働組合の昨年の発表によると、映画の現場スタッフの平均年収は630万ウォン(約44万円)とのことだ。
その一方で「俳優が受け取る高額のギャラは道徳的に判断すべき問題ではない」という声も少なくない。ある芸能プロダクション関係者は「演技力でも知名度でも、映画に『あの俳優が出演するから』というだけで観客が集まることもある。俳優の出演料は『言われるがままに支払うもの』ではなく、市場経済の原理に基づいて決まるもの」と言い切った。