旅コラム:自然と一体になれる空間、慶州「守吾斎」

米国人の慶州の旅行記〈4〉守吾斎

旅コラム:自然と一体になれる空間、慶州「守吾斎」

 カエルの鳴き声、虫の声、穏やかに流れる川のせせらぎ、漆黒の空に金銀の刺しゅうを施したような星明かりの下から時折聞こえてくる笑い声…慶州市の中心部からそれほど遠くない郊外にある古い家々「守吾斎」の夜景だ。

 人が多い慶州市内の有名観光スポットとは異なり、のどかな安らぎと平和な空気が感じられる守吾斎は、全国に散在していた由緒ある古い家々を1カ所に集め復元したものだ。年を追うごとに消えていく伝統的な韓国式家屋「韓屋」を保存するため、全ての部屋・屋根・壁を昔から伝わる工法を用いて土・わら・竹・黄土などで造った。中に入ると、自然を友として思索し、悠々自適の生活と風流の楽しみ方を知っていたいにしえのソンビ(高尚な文人)たちが残した痕跡がそのまま息づいている。最新式で最先端の設備を備えたホテルやそのほかの豪華宿泊施設が持つ便利さは期待できないが、それとは比べものにならない、昔ながらの癒やしと休息が得られる守吾斎は、自然の中で人間と人間の素朴な交流が行われる空間でもある。

 夕闇が迫るころ、守吾斎の「あるじ」で、慶州の文化遺産を紹介する紀行文『千年古都を歩く楽しさ』の著者でもあるイ・ジェホさんは、古い家々を訪れた旅行者たちを温かく迎えてくれた。温かい人情と古い家々が与えてくれる安らかさで、見知らぬ人同士もすぐに心を開いて交わり、ごちそうを一緒に味わううちに、いつの間にか昔からの友人のように打ち解けていった。夜が深まり、さらに酔いが回り会話が弾んだところで、ご主人は笑顔でタンソ(韓国の縦笛)を取り出し、いにしえの旋律を聴かせてくれる。

 守吾斎で過ごした一夜は、ご主人が聞かせてくれる家々の話や、人生哲学を味わうには短すぎた。自然の美しさと伝統家屋からにじみ出る味わいに魅せられ、自然が与えてくれる感動を大勢の人々と分かち合おうと、ご主人は1990年代半ばに新たな人生を歩み始めた。まず、歴史の香りが漂う文化遺跡のすぐ近くで、土地開発とは縁がなく、自然な状態を保ち、澄んだ魂と純粋な気持ちが守れる環境で暮らしたいと思っていたご主人は、長年の思いをかなえようと慶州にやってきた。無心に流れゆく歳月や人々の無関心の中で、徐々に姿を消しつつある貴重な文化遺産を保存し、生かして世の中に感動を与えたいという一心で、ご主人は古い家を一つ、また一つと心をこめて自ら復元した。

 守吾斎という名前は、朝鮮後期の文人・丁若鏞(チョン・ヤギョン)の『守吾斎記』にちなんで付けられたもので「私を守る家」という意味がある。つまり、自身の人生を振り返りながら、本質的な自我を守らなければならないことを示しているのだ。守吾斎に立ち寄る大勢の旅行者たちと自然が与えてくれる感動を分かち合い、素朴で味わい深い人生の楽しみ方を伝えようとするご主人の信念とも言える「安貧楽道(貧しくも心安らかにして天道を楽しむこと)」を代弁しているかのようだ。

 一見華やかだが画一化され、定型化された都会の建物や息苦しいマンション群を抜け出して古い家々で過ごす夜は、多忙な日常で見失っていた自分を再発見し、新たな悟りを開かせてくれる。朝早く起きて、守吾斎を屏風のように取り囲む裏山に登ってみると、目の前に広がる松林が実に壮観だった。澄んだ空気と共に視界が広々と開けた景色を堪能しながら山を下り、家々に沿って戻ると、新羅第25代王の陵墓「孝恭王陵」が楽しめる。

 人の多い都会から少しの間だけでも離れて静かな時間を過ごしたい人、あるいは山寺の伝統文化と修業を宿坊で体験したいが、目をこすりながら朝に読経するのはちょっと…という人は、この世のあらゆる心配事や憂いという名の荷を降ろし、自然と人間が真に疎通できる慶州・守吾斎の歴史に浸ってみてはいかがでしょうか?

文=マイケル・エリオット(ブロガー、タレント)

旅コラム:自然と一体になれる空間、慶州「守吾斎」

<記事、写真、画像の無断転載を禁じます。 Copyright (c)Chosunonline.com>
関連ニュース