慶州名物、ミル麺と皇南パンの味を求めて

米国人留学生が行く、味と歴史の慶州

慶州名物、ミル麺と皇南パンの味を求めて


 韓国のことわざに「金剛山も食後に見学」(「花より団子」の意)というのがある。「いくら素晴らしい景色が目の前に広がっていても、おなかがすいていては楽しめない」という意味だ。このことわざの通り、華やかな千年の歴史が息づく慶州の遺跡や文化財を見るだけでは、慶州を十分に味わったとはいえない。慶州でしか食べられないミル麺や皇南パンを味わうことも、慶州旅行の大きな楽しみの一つだ。

 ミル麺は韓国の冷麺とそっくりで、自分の好みに合わせ、スープを多めに入れた水冷麺風や、コチュジャンをあえて食べるピビン冷麺風にして食べることができる。水ミル麺は、冷たいスープに入った麺の上に、薄切りの豚肉やキュウリ、大根の漬物、半分に切ったゆで卵が乗っている。スープの代わりに甘酸っぱくて辛いコチュジャンを入れ、混ぜて食べるピビンミル麺は、辛いが奥の深い味わいだ。

 ミル麺の正確な由来についてはさまざまな説があるが、ほとんどは韓国戦争(朝鮮戦争)当時にさかのぼる。戦争を避けて南へと逃げてきた北朝鮮の住民たちが、冷麺を食べたくても材料のそば粉を手に入れることが難しく、やむを得ず米軍から与えられた救援物資の小麦粉で作って食べたのが定着したとされる。

 ミル麺は小麦粉で作るため、本来の冷麺のような弾力はないのではないかと思われがちだ。しかし、ミル麺は滑らかで弾力があり、一口食べればすぐにその味に魅了され、ペロリと一皿を平らげてしまう。そんな滑らかでシコシコした歯ごたえのある麺の秘密は、サツマイモのでんぷんを配合した生地、熟成過程、麺のゆで時間、ゆでた麺を冷水ですすぐ時間や水の温度といった熟練した「技」にある。

 ミル麺の上に乗っている具材も通常の冷麺とは若干異なる。冷麺には普通、牛肉が入っているが、ミル麺には薄切りの豚肉を使うのが一般的だ。さらに、その色合いにも秘密が隠されている。半分に切ったゆで卵の黄色、千切りにしたキュウリの緑(青)、大根の漬物の白、コチュジャンの赤、豚肉の黒の5色が韓国の伝統的な色合い「五方色」(黄、青、白、赤、黒)を表しているのだ。この美しい色合いが料理の味を引き立てると同時に、韓国の伝統的な美を感じさせる。

 辛くてさっぱりしたミル麺を食べた後のデザートには、甘くてホカホカの皇南パンがぴったりだ。「皇南パン」は慶州の皇南洞が発祥の地とされ、1939年から3代にわたって受け継がれながら、その味と伝統を守り続けている。今では慶尚北道の名物に指定され、慶州を代表する銘菓として人気だ。

 「皇南パン」が人気を集めたことにより、「慶州パン」や「麦パン」など類似商品も登場したが、元祖「皇南パン」の人気は今も変わらない。毎日決まった量しか作らず、すぐに売り切れてしまうため、皆並んで買っていく。そこで、皇南パンの味の秘密を探ってみることにした。

 皇南パンは、全ての工程で機械を使用せず、手作りで作られている。また、防腐剤や化学調味料を一切使用しておらず、純粋な韓国産の小豆だけを厳選して、長い時間をかけて中に入れるあんを作る。天然の材料だけを使った手作りの皇南パンは、暖めてもドロドロにならず、甘すぎることなく、深い味わいが楽しめる。薄く柔らかい皮も香ばしく、中にたっぷり詰まったあんの味わいが口の中に広がり、言葉では言い表せないほどの幸福感をもたらしてくれる。

 この皇南パンにはこんなエピソードもある。サッカーの2002年ワールドカップ(W杯)韓日大会当時、韓国の代表チームがベスト4入りを果たした時に一役買ったというのだ。代表チームのベースキャンプが慶州で行われ、黄善洪(ファン・ソンホン)選手と柳想鉄(ユ・サンチョル)選手はポーランド戦の前に、この皇南パンを食べ、2人ともこの試合でゴールを決めたというのだ。このため、皇南パンは幸運をもたらすといううわさが選手たちの間に広まり、それ以来選手たちは試合のたびに皇南パンを食べたという。

 美しい秋の空が広がるこの季節、手作りの美味しい皇南パンをほお張りながら、新羅千年の都、慶州を旅してみてはいかがだろうか。

文:ヨン・ダナ(コロンビア大学)

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