バーテンダーのアントニオ・ライさん(31)が、歯磨き粉をつけた歯ブラシを差し出した。「これをどうしろと?」と不思議に思っていると「歯を磨いてみてください」と言う。ライさんの言う通りにしてみると、歯磨き粉からウイスキーの味がした。そして甘酸っぱいユズの香りが口の中に広がった。「これは私が作った『シングルトーン歯磨き粉』というカクテルです」とライさんは紹介した。
英国に本社を置く洋酒メーカー、ディアジオ・コリアの招待で韓国を訪問したライさんは、アジアでは珍しい「分子カクテル」の専門家だ。香港人のライさんは2年前、ベルリンに渡った際に分子カクテルの本を読み、その後「分子料理」の店を食べ歩いて研究を重ね、オリジナルのカクテルを作るようになった。
ライさんに勧められた歯磨き粉カクテルは、ウイスキーとユズの果汁をサンタナとミックスしたもの。サンタナはトウモロコシの粉を発酵させたもので、凝固作用がある。サンタナと酒、果汁などをミックスさせ、冷水に入れると、ゼリー状になる。
ライさんは、木を燃やす際に出る煙もカクテルの材料として使う。その名も「ノーネーム」。まずスモーキーガンという機械で、ジャックダニエルを熟成させる際に使うオーク樽の木のかけらを燃やす。この時に出る煙を、チューブを利用し、ラム、ウイスキー、コーラシロップなどの材料が入ったガラスの容器に入れてミックスする。この過程を3回繰り返すと、木を燃やした時の匂いと木の香りが漂うカクテルが完成する。ワインやウイスキーの専門家たちが「スモーキーだ」と表現する香りが出る。目で煙を、鼻でスモーキーな匂いを、そして口でアルコールを味わうのがこのカクテルだ。
ライさんは「単純に舌だけでなく、目・鼻・耳などの五感を通じてワッと驚かせるような“ワウ・ファクター”が入ったカクテルを作る際に、分子料理学のテクニックを使う」と話す。
■分子カクテル
分子カクテル(molecular mixology)とは、分子料理(molecular cuisine)をカクテルに応用したもの。分子料理とは、食べ物の舌触りと組織、料理の過程などを科学的に分析し、化学的な方法などを応用し、新しい料理を作り出すことを指す。「分子の単位まで研究して分析する」という意味で名づけられた。ソウルのロッテホテルにレストランをオープンしたフランスのピエール・ガネール、スペインの三ツ星レストラン「エル・ブリ」のペラン・アドリアなどが、分子料理で有名な世界的なシェフだ。