江華島で味わう韓国のお袋の味、テンジャンチゲ

 「食文化の欧米化によって、韓国伝統の味が忘れられていくのが残念です」

 気温が大きく下がる晩秋は、真っ白な湯気が立ち込める田舎の風景や、アツアツでピリッと辛いスープが恋しくなる。そんなとき、グツグツ煮えた美味しいテンジャンチゲ(韓国式のみそ鍋)にご飯という組み合わせは、韓国人をこの上なく幸せな気分にしてくれる。そんなテンジャンチゲを求めて、先週末、仁川シティーツアーを利用し、江華島を訪ねた。

 紅葉で真っ赤に染まった街路樹に沿って走っていると、どこからか香ばしい香りが漂ってきた。香りに誘われて行くと、摩利山のふもとにレンガ色のお店が見えた。都会ではあまり見かけることのない赤い煙突と、古い田舎の風景を連想させる黒い釜が、この店の第一印象だった。


 ドアを開けて店内に入ると、香ばしいみその香りが漂っていた。30歳くらいの若い主人がわたしたちを迎えてくれた。社長のピョン・ドヨンさん(32)は、軍隊を除隊した後、おばが送ってくれたみその味を忘れることができず、2007年から両親と一緒に江華島でみそを作っているという。

 わたしたちはこの店で一番有名な「カンテンジャン」と、江華島の特産品サツマイモで作ったコチュジャン(唐辛子みそ)を使った「メウンチョクカルビチム(カルビのピリ辛煮)」を注文した。

 20分ほど待つ間、メーン料理の前に手作りの豆腐が出された。熱々の豆腐の表面はキツネ色に香ばしく焼かれ、中身は真っ白でふっくら柔らかい。


 続いて出てきた「カンテンジャン」「テンジャンチゲ」、数種類のナムル。さらに、湯気を立てながら、真っ赤に輝く「カルビのピリ辛煮」が出され、テーブルは一杯になった。

 カンテンジャンは、採り立てのキキョウの根、ホウレンソウ、青のりなど7種のナムルのほか、真っ赤な飛び魚の卵、エゴマ油を混ぜて食べる。混ぜている間も、思わずよだれが出そうなほど食欲をそそられる。口の中に広がるエゴマの香りと、プチプチはじける飛び魚の卵が、カンテンジャンの味をsらに引き立てる。昔、田舎で食べた祖母の料理を思い出す。


 この店を訪ねてソウルからやって来たというイ・チャンボクさん(64)は、「この店特製のテンジャンで作ったテンジャンチゲのさっぱりした味わいは、昔、母が作ってくれたテンジャンチゲを思い出す。社長の真心が感じられる料理だ」と語った。

 この店ではカンテンジャン以外にも、オカラのチゲや、海鮮チヂミ、スントゥブ(おぼろ豆腐鍋)など、豆を使ったさまざまな料理を味わうことができる。

 「最近の若者はインスタント食品や調味料を使った料理に舌が慣れてしまい、韓国伝統の味が忘れられているのが残念」と、ピョン社長の母、パク・オクジャさんは語る。

 現在、この店のテンジャンはパクさんが作っている。以前、事業で失敗した経験を持つパクさんは、「これから何をして生きていこうかと悩んでいたとき、ふと、昔田舎で作ったテンジャンを使って食堂をやってみようと思いついた」と、店をオープンしたきっかけについて語った。


 そして、パクさんと夫、息子のピョンさんは、家族そろってテンジャンの作り方を習うため、おばの住む慶尚南道咸安郡を訪ねた。しかし当時、おばは3人のアイデアに強く反対したという。

 「テンジャンを作るのがどんなに難しいかよく知っているだけに、おばは当初、強く反対した」とパクさんは話す。だが反対を押し切って、パクさんは2年間、ソウルと慶尚南道咸安郡を行き来しながら、おばからテンジャン作りを学んだ。

 韓国料理の味を左右するのは、何といってもテンジャン。朝鮮時代の前・中期の記録「醤諸品条」には、「家で作ったジャン(みそやしょう油など)の出来が悪いと、よい野菜や肉があっても美味しい料理を作ることができない」と記されている。それほど、韓国料理の中でみそは重要な役割を果たす。


 昔ならではの方法でテンジャンを作っているパクさんは、韓国産の豆だけを使い、釜で6時間煮詰めた後、適度な温度で蒸らす。蒸らした豆を細かく砕いた麦と一緒に練り合わせ、テンジャンの基を作る。これを約6時間、もみがらの火で焼きながら乾燥させる。薪やガスの火で焼くと隅々まで火が通らないため、醗酵する過程で嫌なにおいがするという。

 その後、真ん中に穴を開けて乾燥させた後、1本の縄にテンジャンの塊5、6個を結びつけ、軒下につるして乾燥させる。1本の縄に幾つも結びつける理由は、互いに熱を出し合い、醗酵を促進するため。

 このように手の込んだ作業を毎回繰り返しながらテンジャンを作る理由について聞いてみると、パクさんは、「韓国伝統の味が外国から輸入された味に押され、どんどん影が薄くなっていくのを見て、個人的にとても悲しかった。最近は外国人も、インターネットでうちのコチュジャンを買ってくれる。できることなら、真心を込めて作ったテンジャンの味を世界中に広めたい」と語った。

 伝燈寺から徒歩10分の距離にあるこの店は、江華の草芝鎮、広城堡、伝燈寺などをめぐる仁川シティーツアーの「江華コース」を利用すれば、気軽に立ち寄ることができる。近くの遺跡を見学することもできるため、一石二鳥の旅になるだろう。

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