韓国を席巻する歌手オーディション番組(下)

■歌手そのものよりも、人間的な姿にスポット

 これまで、音楽や歌は韓国のバラエティー番組やドラマで歓迎されるテーマではなかった。トレーニング過程は地味で単調なため、ややもすると退屈だと言われるのがおちだったからだ。ところが、最近になってそのムードは一転した。最大の変化は、単なるパフォーマンスでなく、出演者の背景にある、それぞれが抱える事情や、ヒューマン・ドキュメンタリー的な部分が前面に押し出されているということだ。『ショーバイバル』『悪童クラブ』といったライバル関係にだけ焦点を合わせたかつての番組と違い、出演者・主人公が持つそれぞれの特別な事情を伝えることに力を入れているため、説得力があるという。

 歌手ならではの「サクセスストーリー」がこのところの人気のキーワードという見方もある。『スーパースターK』のチーフプロデューサー、キム・ヨンボムは「シェフやデザイナーらのサバイバル番組が地上波・ケーブルテレビで放送されていたが、専門的な技術を持つ人しかチャレンジできないものだったので、あまり注目を集められなかった。歌手は声一つでどん底を抜け出し大成功できる、ほとんど唯一と言ってもいい職業」と話す。

■現実と比べがち? 「透明な」プロセスを描写

 その人気の秘訣(ひけつ)については、「透明な歌手デビューのプロセス」が満足感を強く与えているという声もある。KBSのチョン・ジングク芸能局長は「視聴者は、大手芸能プロダクションから生まれた従来のスターとは違い、『透明でオープンな手続き』と『公正な審査』に期待している。ありのままのデビュー過程や自己実現過程を見ることで、視聴者は現実社会ではほとんどない『公正なプロセス』に期待しているようだ」と話す。

 制作者にしてみれば、これは申し分のないすばらしい素材だ。ホ・ウンSBSドラマ局長は「歌は目も耳も満足させてくれるエンターテインメントという点で、ほかの素材よりもドラマチック。『音楽をやっている』という言葉には、制度という枠を越え、自由に自分を表現できるという象徴性があるので、制作者側にとって現実世界と対比できる、これ以上願ったりかなったりの素材はない」と話している。

パク・セミ記者
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