この数年間、女優イ・ミヨン(38)は気持ちが沈みきっていた。歴史のうねりに憤りを感じながらもそれをのみ込む皇后(KBS『明成皇后』)、家族の数奇な歴史を押し隠す売春婦(映画『タイフーン』)、夫を殺した男と恋に落ちる女(SBS『愛に狂う』)…。強いヒロインを演じていても、その役には陰があった。
しかし、このほどスタートしたKBS週末時代劇『巨商・金万徳(キム・マンドク)』では、叫び、走り回り、大声で笑う。16日にKBS水原センター(京畿道水原市)で会ったイ・ミヨンは、額に玉の汗を光らせたまま、姿を見せた。「『自分の意見のほうが正しい』と役所で万徳が叫びまくるシーンがあって。フフフ」
『巨商・金万徳』は、朝鮮時代に女性で初めて「巨商」と呼ばれるようになった実在の人物、金万徳(1739-1812)の生涯を描く。イ・ミヨンは孤児から済州島一の富豪になった後、全財産をはたき貧しい済州島民を救ったヒロイン・万徳を演じている。彼女はライバルのムンソン(パク・ソルミ)に邪魔されたり、全く性格の違う二人の両班(ハン・ジェソク、ハ・ソクチン)から愛されることになる。
『明成皇后』に続き、2回目の時代劇出演だが、3年ぶりの作品とあり、プレッシャーも大きい。イ・ミヨンは「毎日鏡の前に立ち、『あなたは万徳だ、万徳』とつぶやいています。そうやって、早く明るいエネルギーを持つ万徳が『降臨』するよう祈っているんです」と語った。今は「半分降臨したみたい」とのことだ。
同年代の女優たちがたくましく元気な主婦を演じるのに忙しいとき、イ・ミヨンはしばらく表舞台を離れていた。「ロマンチック・コメディー物の主婦役を」というオファーもあったが、心にスッと入ってくるような作品がなかったそうだ。「イメージチェンジというものは、一般の方々とわたし自身の期待に折り合いをつけながら、少しずつ試すのがいいみたい。脚本家や演出が誰か、その前作がどうだったかを細かくチェックするほうだから、実はスムーズに作品を選ぶことができないんです」と語った。
1988年のドラマ『愛の喜び』でデビュー以来、ずっと清純かれんな役や、堂々とした女性の役ばかり演じてきた。イ・ミヨンといって思い浮かべるイメージも、映画『幸福は成績順じゃない』やテレビ時代劇『明成皇后』の役の印象だ。特に、『明成皇后』はイ・ミヨンの中にカリスマ性があることをを知らしめた大きなターニングポイントだったという。
そんなイ・ミヨンに、「変わらず女性らしく、神秘的なイメージですね」と言うと、「そうですか? 本当?」と穏やかな笑顔が返ってきた。「わたしには二つの面があります。父は豪快な男の中の男、母は天性の女性らしさを持つ女の中の女。その二つを親から受け継ぎました。パク・ジュンフン先輩も、わたしの両親に会うと、『君は女優として本当にいいなあ』って」
だが「さっぱりしているから」と仕事仲間が付けてくれた「女チェ・ミンス」というニックネームについては、きっぱり「イヤです」と語った。「わたし、見た目より小心者で、ちょっとした言葉にもすぐに傷ついてしまうんです。人に言葉をポンポンかけることもできないし。仕事で『女』として見られるのがイヤで、わざとさっぱりした性格のように振る舞っているだけなのに。まさかわたしが恋人にも『ちょっと、あんたご飯食べた?』とでも言っていると思います? わたしも好きな人の前では、かわいくて愛嬌(あいきょう)がある女なんです」と自分で自分をフォロー(?)した。
離婚して独り身になってから10年。新しい出会いもあったが、その恋も破れたという。「別れた理由すら納得できなかったころ。それほど結婚を焦っていたんでしょう。今は流れに任せ、無理やりご縁を作らないようにしています。『ミヨン、運命よ。従えば天の神様も、後であなたにかわいい赤ちゃんをプレゼントしてくださるから。焦って決めないで』って」
そこでちょっと言葉を止めたイ・ミヨンが、フフッと笑った。
「こんなこと言ってますけど、実は一人の今も十分幸せなんですよ」