ソウルといえば、まず思い浮かぶのが高層マンション群だが、その一角には今も人の息づかいが感じられる路地裏の風景が残っている。それがソウル市西大門区弘済洞の「アリ村(ケミマウル)」。経済的に苦しい人々が集まり暮らしている地域の一つだ。山のふもとに軒を連ね、身を寄せ合っている典型的な貧困層居住地域というべきこの場所に、外部の人間が出入りするようになったのは昨年8月30日以降。西大門区と錦湖建設が提携・企画した「光の絵が似合う地域プロジェクト」により、5大学の美術科の学生たちがごく普通の塀や壁にカラフルな絵を描いてくれたおかげだ。
もともと「アリ村」は韓国戦争(朝鮮戦争)以降にできた。行くあてがない貧しい人々がやって来て、テントを張り暮らし始めたころは「インディアン村」と呼ばれていたそうだ。その後、この地域に定住するようになった人々が「アリのように一生懸命働く」といわれたことから、「アリ村」という正式な名前が付いた。
コミュニティーバスさえ「息切れ」しそうな急な坂道に沿って歩くと、道の両側には興味深くステキな絵がズラリと描かれていた。道沿いの塀には、花が咲いていたり、かわいい子豚や子犬が笑っていたりする。「アリ村」では、こうしたステキな絵に穏やかな日常が囲まれている。空き地に作った家庭菜園では野菜が育てられ、屋根の上ではトウガラシを干し、物干しざおでは洗濯物が風に吹かれ踊っている。どれも最近のソウル市内のマンション群ではなかなか見られない光景だ。「アリ村」を歩く際は、昔の駄菓子屋や日用雑貨店を思い起こさせる小さな店で飲み物を買い、公園に腰掛けてソウル市内を見下ろすのも楽しそう。誰かに会ったらたとえ上手でなくても韓国語で声をかけるのを忘れずに。きっと笑顔で返してくれるから。
■開館案内
*アクセス: 地下鉄3号線弘済(홍제)駅2番出口からコミュニティーバス7番に乗車し、終点で下車
*住所: ソウル市西大門区弘済3洞9-81
記事=イ・ヒョンジュ 写真=チョン・イクファン