カワニナはきれいな川にしか生息しない巻き貝だ。全羅南道任実郡がカワニナで有名なのは、それだけ汚染されていない本来の自然が残っているという意味でもある。任実郡でも、カワニナの名産地と言えば江津。特に玉井湖や川潭里が有名だ。
江津面(村に相当)の事務所前にあるソンウォン食堂のオーナー、イ・グンスンさん(59)は「休暇シーズンになると、この一帯が全州バスターミナル以上にたくさんの人で混み合う」と自慢げに話した。カワニナは手間のかかる食材だ。爪の先ほどのカワニナを、針を使って一つ一つ、殻から身を取り出さなければならない。川潭里で獲れるカワニナよりも、玉井湖のものが質がいいという。玉井湖は川潭里より水の流れが速いため、身が大きくしっかりしている。
カワニナは春と秋が旬。この時期には獲れたてのカワニナを使うが、冬にはあらかじめ火を通し冷凍しておいたものを使う。「取れたてほどではないが、冷凍でも美味しい」と話すイさんは、1日に使う量を冷凍庫から取り出し、水に浸す。カワニナを浸した水は、徐々に緑色へと変わる。イさんによると、カワニナの体液の色だという。
この水を鍋に入れ、火にかける。ここへ、先に取り出しておいたカワニナの身、千切りにしたタマネギ、ズッキーニなどの野菜、刻んだニンニクを少々加える。グツグツ煮立ったところにすいとんを入れ、斜めに切ったトウガラシをのせれば出来上がりだ。
化学調味料を使う店も多いが、イさんの店ではカワニナ特有のほろ苦く香ばしい味わいを生かすため、野菜もカワニナの脇役程度にしか使わない。
全国各地でカワニナ汁を食べることはできるが、やはり全羅道で食べるのが一番美味しい。苦味のあるイヌヤフシソウ(キク科の二年草)、乱切りにしたダイコンのキムチなど、素朴なおかずが7、8種類もついてくる。カワニナ汁は1杯6000ウォン(約460円)程度。カワニナ汁を提供する店には大抵ドジョウ汁もある。
最近は安い輸入物のカワニナを使う店が多いため、「もしかしたらこの店も?」と思い聞いてみた。オーナーのイさんは、「カワニナを食べるためにわざわざ遠くから来る人もいるのに、中国産のカワニナなんて使えない。任実郡で獲れるカワニナだけで量は十分」と話す。それでも念のため、任実郡庁に問い合わせてみた。すると「江津にあるソンウォン食堂、ソンシム食堂、グリーン食堂、カンサネ食堂は任実産のみを使用していると、自信を持って断言できる」という答えが返ってきた。