ソン・イェジン(27)のように有名な女優は、少し離れた所から見る方が気楽だ。数多くの観客と一緒にスクリーンで見ていた彼女を単独取材するためカフェの個室に招き入れ、映画会社スタッフはシャットアウトした。彼女を敬い慕ってきた者にとっては至福の瞬間だが、映画関連の質問をしなければならない者にとっては、室内の気圧が急に高まるような重圧を感じた。幸い彼女は、にこにこ笑いながら会話をリードする人だった。19日に公開された映画『百夜行』の主人公ソン・イェジンに会ったのは12日、三清洞のあるカフェでのことだった。
「今回の映画は本当に映画のような話です。悪い人たちを憐れみの心で受け入れるようにします。ただスリラーやミステリーのように面白く付いていく感じではないので、観客がわたしたちが望むように付いてきてくれるか緊張します。まさにそれが演技をするとき、一番難しい点でもありました」。映画で彼女は、殺人者の娘という過去を持っている、財閥家の婚約者ミホ役を演じた。せりふがとても少ないうえ、そのせりふもまた非常に非現実的なキャラクターだ。
-現実で経験できない役なので、かなり難しかったようですね。
「私の職業はどちらにせよ、想像することですから。ところが今回の役は、誰かに会ってみることもできないキャラクターなので…。わたしの場合は、心を無にするやり方で演技をします。自我が強いと俳優は大変になります。演技以外のことには傷つきやすくて、しっかりしなければなりませんが、演技をするときはもっとオープンに受け入れるべきなのです」
-傷つきやすい演技以外のこととは何ですか?
「わたしは最初から主に初恋の相手役、きれいで純粋で、か弱い役ばかり演じたじゃないですか。それで後から“知ってみると、実際は違っていた”と何度も言われました。ゴシップやうわさで“純粋なイメージのS嬢”といえば、全部ソン・イェジンです。だから俳優は職業ではなく、人、人生そのものだと思います。一人で家にいるとき以外は、一挙手一投足が全部露出されるから。だからわたしが家の外にいるときは、いつも演技をしているというわけです」
特にスキャンダルやうわさがない女優だと思っていたが、ソン・イェジンは「ハリウッドにだけいると思っていたパパラッチが韓国にもいる」とし、しばらく興奮気味に話した。しかし「“純粋なイメージ”という言葉が嫌いなほどなのか?」と問うと彼女は「純粋という言葉はまだ好き」と答えた。
『百夜行』の最初のシーンはソン・イェジンのベッドシーンだ。しかしカメラは彼女の裸より顔を長く映し出し、一味違う印象を与える。「その場面はわたしができないと言えば、撮れなかったシーンでした。でも原作小説でとても鳥肌が立った部分だったし、それがなかったらミホを十分に表現できないだろうと思いました。ただわたしの後ろ姿が下品で派手に見えてはいけないという心配はありました」
-女優になって正解だったと思いますか?
「私は中学生のときから芸能人ではなく、女優になりたかったんです。わたしは自分のことをたくさん考える内向的な子どもでした。わたしの中に何かが多かったようです。それで演技をしたら、うまくできそうだと思ったんです。だから演技以外のことで傷ついたら、“女優として背負っていかなければならないものなら、甘んじて受けよう”と。そう考えたら、あまり傷つかなくなりました」。彼女は「ほかの仕事をしたとしても、それなりにできたと思いますが、女優ほどうまくはできなかったでしょう」と語った。
“きれいで純粋なイメージ”のソン・イェジンは「きれいな女優の方が初めにチャンスが多いのは事実」とし、「しかし時間が経つと、真価が現れる」と語った。時間は彼女の真価を現わしているのか。彼女は『百夜行』でその答えに確信を持たせてくれるはずだ。