韓国人をとりこにした二人の日本人パン職人

 韓国に居住する日本人は現在約3万人に達し、そのうちソウルには約9000人が住んでいるという。彼らはそれぞれのスタイルで生活しているが、藤原やすまさんと高見加奈子さんはパンを作って生活している。韓国人が好む日本式のパンで勝負を賭けた二人に話を聞いた。

「ニューヨークに『Tokyo Panya』を出店するのが夢です」
Tokyo Panyaの藤原やすまさん

 東京・下北沢の「アンゼリカ」は韓国でもおなじみの人気のあるパン屋の一つ。ここで3年間ヘッドシェフを務めた藤原さんは韓国に来て2年が経過した。

  ニューヨークで音楽を勉強していた彼は将来音楽だけでは食べて行けないという現実を悟り、日本に帰ってパンのスキルを学んだ。おいしいパンづくりに人生の すべてを賭けていたころ、韓国で事業を行っている知人から連絡があり、ニューヨークに行く前に別の国で経験を積んでみようかと思い韓国に行った。しかし勤 めていたレストランが閉業したため自分でパン屋を開業することにした。自分一人でマーケティングし、不動産屋を訪ねて適当な場所を探し回った。

  どこで開店すればよいかと悩んだ末、住宅が密集しているノンヒョン洞に店を構えた。ここは固定客を多く作ることのできる利点とチョンセ(家を借りるために 家主に支払う高額の保証金)契約ということで不必要な支出を減らすことができるため条件はよかったが、流動人口が少なかった。にもかかわらず、パンに関し ては自信があったため、一度うわさが広がれば商売がうまくいくと確信していた。そしてその予想は的中した。各種飲食関連のブログに「Tokyo Panya」のパンがおいしいとの書き込みが掲載されたのだ。それ以来、多くの若い客が来店している。藤原さんは「日本で味わったパンを韓国で食べられる と言って、パンを一袋ずつ喜んで買っていく。韓国で働くことは辛いがやりがいを感じる。早く第2の『Tokyo Panya』を開店させたい」と打ち明けた。幸い藤原さんは同店を、日本語と英語ができる従業員とともに切り盛りしている。彼女は、シドニーのル・コルド ン・ブルーを卒業した「ペストリー・クック」で、インタビューの随所で通訳を手助けしてくれた。

 藤原さんは、気さくでピュアな性格だが 茶目っけも多いほう。時間があるときは従業員とまた一人でカラオケボックスに行くという。藤原さんはニューヨークでパンクグループに所属しボーカルを務め ていた。いつかまた音楽を始めたいが、音楽で生計を立てることはないとも思っている。

 また性格が朗らかなことから町内の人からの人気も高い。インタビューしている際も、来客とのつたない韓国語での対話が自然な感じがした。藤原さんの目標は何か。それはニューヨークを離れる時からの夢だったこのニューヨークの地にパン屋を出店することだ。


■Tokyo Panya
*所在地: ソウル市江南区ノンヒョン洞211-9
*TEL: 82-2-540-7790
*営業時間: 12時-21時
*定休日:日曜日

「日本のパンって何?」
MILCAREの高見加奈子さん

  高見さんに一番好きなパンは何かと聞いたところ、「わたしは自分が食べたいパンしか作らない」という答えが返ってきた。店内を見回すとパンが所狭しと並べ られており、彼女がここに多くの情熱と愛情を注いでいるのがうかがえた。彼女はホームベーカリースタイルで、自身が好むパンしか作らないという哲学の持ち 主だ。

 高見さんが韓国に訪れたのは2002年。だが以前から韓国語の勉強はしており、学生時代にハングルを見て韓国語を学びたいと思っ たそうだ。97年から韓国語の勉強を始め、留学して日本に帰り、会社勤めをして再度韓国を訪れた。ただ韓国に慕ってきたものの、実際のところ何をすればよ いのか分からなかった。そうした中、普段パンを作って友人にプレゼントした際によくおいしいと褒められたことがあり、友人の勧めもあってパン屋を開店する ことにした。

 外国人がよく訪れる弘益大周辺に映画『かもめ食堂』のようなパン屋をオープンして2年、「MILCALE」は各種韓国メ ディアに紹介され、固定客も多数確保した状態だ。理由は言うまでもなくおいしいからだ。とりわけ日本のパンを好む女性が多い。あと日本人が韓国でパン屋を 営むということに新鮮さを感じているというのも無関係ではなさそうだ。彼女が突然「日本のパンって何?」と尋ねた。日本人が作るパンと答えたが、日本人が 作ったフランスパンは日本のパンなのかという疑問も生じた。彼女は答えた。「わたしは自分が好きなパンを作るだけ、それは日本のパンではない」

  高見さんは毎日パンを焼くわけではない。休まずに一人でパンを作るのは不可能だ。まだ手助けしてくれる人がいない上に、材料も自身で手に入れなければなら ない。やり残した仕事もあり、また休まなければ次に仕事にかかれない。過労で脱水症になって以来、休息は必須だということを悟ったとのこと。彼女は自身が コントロールできるだけパンを作るという。「MILCALE」は大量生産するパン屋ではなく、またフランチャイズ化する考えもない。金を儲けるために韓国 に来たのではなく、やりたい仕事をして楽しくパンを作るために来た。死ぬまでパンを焼き、客においしいと言われるパンを作りたいという。同店のしょう油キ ノコグラタンと明太子フランスは人気が高い。かわいいネズミの形をしたさつまいもパンは彼女が個人的に好きなパンとのことだ。



■MILCARE

*所在地: ソウル市麻浦区西橋洞335-16
*TEL: 82-2-3143-7077
*営業時間: 10時-20時
*定休日:日曜日、毎月第1・3・5月曜日

Tokyo Panya vs MILCALE

 フランスを代表するパンがバケットのように、日本のそれはメロンパンではないかと思う。両店ともフランスパンは人気が高く、早く行かないと買えないほどらしい。韓国人がこれほどメロンパンが好きだったとは多少驚きだ。

 「MILCALE」の場合、パンのメニューが日によって変わる。いつも同じものを食べると飽きるように、パンも少し変った具を入れなければ飽きられる。当たり前のようだが変わらない真理だ。だがパンを作る側にしてみれば容易なことではない。クッキー の種類も多いほうだが、一度にたくさん作らないとのことだ。常に新鮮なパンを売るために、一日過ぎたパンは翌日に割り引いて売り、それでも売れなければ捨 てる。甘いのがきらいだという高見さん。日本ではパンとケーキをともに売る店はどちらもまずいという。しかし韓国ではほとんどのパン屋が両方売っている。

  一方、「Tokyo Panya」は99%日本式だと藤原さんは言う。自身が「アンジェリカ」で学んで開発したパンだけを作るとのことだ。同店のみそパンはそのうちでも最も人 気の高いメニュー。カレーパン、メロンパン、イチゴそぼろパンのほか、ワッフルで作った生クリームロールケーキとプリン、チーズケーキも人気が高い。ケー キは注文販売する。藤原さんの一押しは牛乳パン。柔らかくてもちもちとした食感がお勧めとのこと。3カ月に1度日本に行き、パンの最新トレンドをキャッチ しそれを適用するという努力もすごい。日本のパンにはまっている韓国人にとってはこれとない情報だ。



記事=オ・スンヘ, 写真=チェ・ヨンデ

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