「KIM & CAHNG法律事務所」で、日本と韓国の企業交流を担当する小林直人さんに会った。韓国とかかわるようになって30年、その半分を韓国で過ごして来た。優しそうな眼差しが印象的な小林さんは、こと韓国の食べ物に関しては、普通の韓国人よりも知識が豊富だ。
-韓国の第1印象はいかがでしたか。
「1979 年7月、初めて韓国へ来ました。当時の韓国は軍事政権の時代で、夜間外出禁止令や非常戒厳令を経験しました。夜間通行禁止となる時間前には急いでバスやタクシーに乗り込み家路を急ぐ時代でした。
-かなり昔のお話ですね。そのほかに何か今と違うことはありましたか。
最初は外国(日本)人の多く住む東部二村洞で妻子とともに暮らし始めました。1980年代初め「63ビル」がまだない汝矣島(ヨイド)の風景が印象にあります。街の中には、今では少なくなった頑丈で2M近くもある高い荷台の自転車が走っていました。当時のタクシーはみな「ポニー」でした。この「ポニー」という 車は韓国で初めて開発され輸出に貢献した乗用車です。今から思えば自由の少ない暗い時代でしたが、人々はたくましく、生き生きとした生活感があふれていました。キムジャン(越冬用に漬け込むキムチ作り)の季節になればベランダに並ぶキムチカメが壮観でした。それらの風景は緊張感が漂う時代にあって、どこかのどかな雰囲気も感じられました。時々、その当時を懐かしく思い出すことがあります。結婚して間もない頃に韓国へ来たため、私たちの人生で最も幸せな時期を韓国で過ごしたといえます。
-今、韓国でどんなお仕事をされていますか。
昨年から「KIM & CAHNG」法律事務所で、日本企業に関する顧問を務めています。韓日両国企業の交流のための手助けができればと思っています。
-韓国へ来られたきっかけは何でしたか。
日本の総合商社「丸紅」の韓国駐在員として、初めてソウルに来ました。それから、日本貿易振興機構(JETRO)/日本国際交流基金(JAPAN FOUNDATON)のソウルセンターやKOTRA(大韓貿易投資振興公社)東京貿易館勤務などで、日本と韓国の間を何度も行き来しました。日本へ帰っても、いつも韓国が懐かしくなりました。今またご縁あって、5回目の韓国生活を楽しんでいます。
-韓国で長く生活する中で感じた韓国の魅力は何ですか。
ほかの人も同じことを言うと思いますが、韓国には独特の「情」という文化があります。親しくなれば他人同士であっても家族のような雰囲気が生まれます。また、韓国は外国の文化を早く受け入れた上で、韓国流にアレンジする能力にたけていると思います。
-韓国で一番戸惑ったことは何ですか。
3年前にオートバイ事故に遭ったことがあります。歩道を後ろから猛スピードで走って来たオートバイにはねられました。その後は夜の歩道に今でも緊張しています。韓国に来られる日本人の方も、歩道とはいえ特に注意されるようお伝え致します。
-日本の友人が初めて韓国を訪れるとしたら、何を薦めたいですか。
B-BOY 公演やミュージカルなど小劇場をお薦めしたいです。エネルギッシュな若者たちが繰り広げるステージは、韓国人のアクティブな一面をとても良く表わしたものだと思います。ステージと観客の一体感が自然に生まれるのも感動的です。
それと、景福宮にある「国立古宮博物館」は軽食の休憩所としてもお薦めです。ソウル以外の地方の魅力は色々ありますが、特に全羅道(全州・光州など)の美味しい食べ物や弥勒寺、またパンソリ・書芸文化などを挙げたいです。
-これからだんだん寒くなってきますが、日本の観光客たちにアドバイスがあればぜひ。
韓国は、季節ごとのレジャーや見どころ、食べ物が豊富です。これから冬場は寒さが厳しくなりますが、街はいつも活気にあふれています。お腹がすいたら、温かいチョンゴル(韓国風寄せ鍋)などで元気をもらってください。
■眞味食堂
韓日両国の企業や市民の相互理解、交流促進のために支えになりたいという小林さんとのインタビューは、カニ料理の名門として知られる「眞味食堂」で行われた。忠清南道・瑞山(ソサン)出身の社長と娘さんが共同で経営している店で、日本でも紹介されたことがある。この店のメニューはたった一つ、カンジャンケジャン(カニの しょう油漬け)だ。言葉のわからない日本からのお客さんも、黙って座れば美味しいカンジャンケジャンが食べられる。韓国でカンジャンケジャンは高価な珍味として知られている。人気のある料理だが、供給量が少なく、濃厚なしょう油の味を出すのが容易ではないためだ。おいしいという評判を聞けばどこへでも行く食通たちも、自信を持って薦める店はそう多くない。この「眞味食堂」はそのお薦めの一つだ。
韓国でTVドラマ化・映画化され、日本でも翻訳コミックが出版されるなど有名なグルメ漫画『食客』の作者、ホ・ヨンマン氏が、韓国で「ミスター寿司王」として幅広く親しまれている「将太の寿司」作者、寺澤大介氏と小林さんを2年前に紹介したのがこの「眞味食堂」だ。その後、ここは小林さんにとって行きつけの店となり、日本からのお客さんから頼まれるとこの店を訪れるという。
カンジャンケジャンと一緒に出てくるおかず(パンチャン)も、とても口に合うものだ。瑞山からの新鮮なカキの塩辛は、この店を代表するおかずだ。ちなみに、カンジャンケジャンを美味しく食べるには、カムテ(青海苔と味が似た海藻で、アワビやサザエのえさになる)と海苔の上にカキの塩辛とご飯、カニの肉一つまみを乗せ、巻いて食べるの がお薦め、と小林さんは話した。
■開館案内
*アクセス: 地下鉄5・6号線孔徳駅下車、1番出口から100メートル直進。麻浦警察署真ん前、S-OILスタンドの裏側の壁に看板あり。
*住所: ソウル市麻浦区孔徳洞105-127
*Tel: 82-2-3211-4468
*営業時間: 午後0時-10時
*定休日:日曜・祝祭日
記事=オ・スンヘ, 写真=チョ・ジョンソク