「ネエちゃんに頼みがあるんだけどよ、ちょっとおとなしくついて来てくれないかな」
9月17日に放送されたMBCドラマ『地面にヘディング』。こわもての悪役が車に乗っていたヒロインのカン・ヘビン(Ara)を拉致するシーン。だらだらとしていたドラマが、久しぶりにスリリングな展開になった。しかしそれもつかの間。悪役がサッと凶器を取り出した瞬間、緊張の糸は切れ、失笑に変わった。ヒロインのあごの下に当てられた物体は、だれが見ても凶器ではなかったからだ。新聞紙でくるんだ長方形の物体をさも怖そうに振り回す悪役の姿は、このドラマの一番シリアスなシーンをコメディーにしてしまった。放送通信審議委員会の関係者でさえ、「審議通過のためドラマに登場する凶器を紙や包帯で巻くのは1990年代まで使われていた技法だが、どうしてこんな風にするのか分からない」と話すほど。審議に対する強迫観念がドラマの完成度を下げた代表的なケースだ。
放送審議規定第38条第2項には、次の通り書かれている。「放送は犯罪の手段や凶器の使用方法、または薬物使用の描写に慎重を期さなければならない。こうした方法が模倣されたり、動機を誘発させたりしてはならない」。当然のことだ。しかし、慎重すぎる描写やわざとらしい設定となれば話は別だ。「紙で包んだ凶器」はリアリティーがないのはもちろん、「努力を怠った解決方法」の象徴だ。
8月末まで放送されていたMBCドラマ『チング~愛と友情の絆~』も、審議に対する強迫観念のため台無しになった作品だ。チンピラたちの物語のため、暴力シーンがよく登場するということから慎重に描写する必要はあったが、制作スタッフとテレビ局の審議チームは、何でもかんでも一貫して「モザイク」処理した。乱闘の中で主人公が手に取った洗濯物をたたく棒までモザイク処理をしたほど。視聴者は「作品に100%集中できない」と不満をぶちまけた。
もちろん、制作者側だけを責めることはできない。韓国の審議はジャンルにより基準が変わるためだ。犯罪の具体的な描写なら、地上波放送の深夜に放送される『CSI:科学捜査班』など米国のドラマのほうがずっと露骨だ。罪のない犠牲者が残酷に殺され、その遺体が解剖されるプロセスまで、顕微鏡で見ているかのように細かく描かれている。だが、こうした作品で、過剰なモザイク処理のため視聴者から不満が出たという話は聞いたことがない。暴力的でエロチックなシーンと言えば、未成年の視聴者も多い「15歳観覧可」の時代劇『善徳女王』もなかなかのものだ。このドラマは序盤、戦場でさまざまな武器が兵士の肉を割き、骨を打ち砕く残酷なシーンをリアルに描写していた。関係者は「外国の作品や時代劇の場合、視聴者が現実のものと勘違いする確率が低いため、基準が違う」というが、視聴者の立場から言わせてもらえば納得しがたい。
不特定多数が視聴可能な地上波ドラマの制作スタッフが、健全な社会風俗に害を及ぼさないよう、常に念頭に置くべきことは「常識」だ。しかし、継続性のない審議、そしてその審議に備えた付け焼き刃的な安全策が、ドラマを一瞬にして「学芸会」レベルに落としてしまうことも忘れてはならないだろう。なにせ、最近の韓国ドラマは国内より海外の視聴者のほうが多い「主力文化輸出品」なのだから。